DVDを購入して映画を4本みた。いずれもとても良い映画だった。感想を記す。
「花咲くころ」 2013年 ナナ・エフクティミシュヴィリ、ジモン・グロス監督
ジョージア映画。1992年、ソ連崩壊後の内戦時代を舞台にして、14歳の少女エカとその親友ナティアの暮らしを描く。かなり衝撃的な秀作だと思う。
内戦の影響だろう、トビリシの少年少女の世界にも暴力がはびこっている。銃が日常的に手に入り、人々がナイフを振り回す。人々の生活は貧しく、パンの配給を求める市民は殺気立っている。そんな中、エカは父親が刑務所に入っているために屈折した日々を送っている。ナティアは飲んだくれの父親と心の離れた家族に苦しんでいる。ある時、二人はピストルを手に入れる。ナティアはほぼ暴力的に乱暴な男に連れ去られてその男と結婚することになるが、すぐに夫の本性が明らかになり、別れたいと思い始める。しかも、夫はナティアがかつて心を寄せていた青年ラドを嫉妬のあまりナイフで殺してしまう。ナティアはピストルで夫を殺そうとするが、エカはピストルを奪って池に捨てる。
前半、実をいうと、顔の認識能力に難のある私は、そもそもエカとナティアの区別がつかずに困った。しかも、二人に家族や友人がいるものだから、ますますわけがわからない。二つの家族がごっちゃになって、途中でDVDをはじめから見直した。が、後半はぐいぐいとドラマに引き込まれた。
内戦間の少女たちの心を通して、まさしく時代のあり方、人間のあり方を鋭く描いている。殺伐とし、様々なところで分断の起こる社会。その中でも、人と人の信頼を求め、家族愛や友情を得ようとする人々。初々しい心を持ちながら、時代に翻弄されていく若者たち。
新郎と幸せに結ばれたとは言えないナティアの結婚式で、エカは納得できない気持ちを抱えたまま無表情なまま踊りを披露する場面は素晴らしかった。
「ノマドランド」 2021年 クロエ・ジャオ監督
昨年のアカデミー賞受賞作品。封切当時から見たいと思っていたが、DVDを購入して視聴。よい映画だと思った。
企業の倒産のために家を追われ、夫を失った中年女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)が車上生活をし、季節労働者として働きながら旅をする様子を描くロードムービー。何らかの暗い過去を持ち、家を捨てて車で生活をするノマドが描かれる。それだけの話だが、悲しい気持ちを抱き、様々な苦難に合いながらもできるだけ自由に生きていこうとする人たちへの共感、そしてまさに弱い人間への共感が映像全体に現れていて、静かに感動できる。
旅の先々の自然の風景も美しい。出会う人たちの漏れてくる人生の断片も身につまされる。そして、主役のマクドーマンドをはじめとする俳優たちの自然な演技にも脱帽。
「友だちのうちはどこ?」 1987年 アッバス・キアロスタミ監督
アッバス・キアロスタミ監督の傑作として知られている映画だ。
イラン北部の小さな村。小学生のアハマッドは同級生のノートを間違えて持って帰ってしまう。先生は厳しくて、ノートに宿題を書いてこなかったら同級生は退学になると宣告している。アハマッドは自宅に帰って、間違えたノートに気づき、友だちの家を探してノートを渡そうとするが、家族はアハマッドに次々と仕事を言い渡し、探しに行ってからも大人たちはアハマッドの話をきちんと聞いてくれない。あちこちを訪ね歩くが、夜になっても結局、友だちの家は見つからず、仕方なしに友だちのノートにアハマッドが宿題を書いて、翌日、友だちに渡す。
それだけの話なのだが、確かにとてもよくできている。子どもの純粋な気持ち、親たちの理不尽な指示、一方的に他者に厳しさを教え、言いつけに従わせようとする社会が浮き彫りになり、それでも貧しく真面目に生きていこうとする人々の姿が浮き彫りになる。映像も美しく、子どもたちの演技もけなげでかわいくて、素晴らしい。
ただ、「桜桃の味」「オリーブの林をぬけて」「トスカーナの贋作」「ライク・サムワン・イン・ラブ」「風が吹くまま」などのこの監督の映画をみたが、どうも私はあまりおもしろいと思わない。この「友だちのうちはどこ?」も、意図はわかるものの、少々退屈に思ってしまう。そもそも私はこう見えてかなりせっかちなので、次々と邪魔が入って子どものしたいことができずにいる様子を丹念に描かれると、それだけでイライラする。一言でいえば、とてもよくできた映画だが、私の好きな映画ではなかった。
「異端の鳥」 2018年 ヴァーツラフ・マルホウル監督
封切時、ぜひみたいと思いながら時間が合わなかった。DVDを購入して鑑賞。これは凄い映画!
まず何をおいても最初に言わなければならないのは、この圧倒的な白黒の映像美。最初から最後まで、完璧にコントロールされた映像美の世界が展開される。日常的な意味で、どれほど不潔で薄汚れた場面を描いても、詩的世界になっている。そうすることによって、第二次世界大戦の舞台となった東欧の田舎町の現実が一つの神話世界になる。
それにしても、あまりに残酷で理不尽な社会だ。主人公の少年は、どうやらユダヤ人らしい。ホロコーストを逃れるために、家族から離れて一人、知り合いの女性の家にかくまわれていたが、その女性が突然、病死。一人であちこちをさまようことになる。見るからにユダヤ人らしい風貌なのだろう。どこに行っても除け者にされ、差別され、迫害され、奴隷のように扱われる。少年自身も残酷な目に合わされるが、先々で出会う人々の多くが理不尽な目に合っている。それをほとんど説明のない映像で、台詞もなく、ただ静かに克明に描かれる。
ドイツ軍、ソ連軍、コサック兵らが互いに戦い、また村人を痛めつけ、村人同士もいがみ合い、最終的に主人公の少年がすべてに痛めつけられる。中には、少年を助ける大人もいるが、それは長続きしない。最期には父親と再会して引き取られるが、暗い表情のままでハッピーエンドの雰囲気はない。
原題は「ペインテッド・バード」。色を塗られた鳥。つまり、色が違うために同種の鳥からも攻撃されてしまう除け者の鳥。映画では、複数のスラヴ系の言語を抽出して作った人工言語が用いられているという。そうすることで、東欧のどの国が舞台なのかわからなくしたということだが、そのために、いっそう神話的になっている。
現在、ウクライナでのロシアの兵士による残虐な行為が報道されている。この映画で語られているのは、70数年前に終わったことではない。現在なお、このような残虐な行為が兵士によって、そして一部の市民によって行われているだろう。まさにこの映画は、人間の持つ残虐性、暴力性を神話として真正面から描いているといえるだろう。
原作はコシンスキという作家の小説だという。まったく知らない作家だが、読んでみたいと思って注文した。
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