« METライブビューイング「ナクソス島のアリアドネ」 | トップページ | 映画「メイド・イン・バングラデシュ」 まっすぐな映画! »

オペラ映像「イェヌーファ」「炎の天使」「魔弾の射手」

 2022年ゴールデンウィーク。久しぶりにコロナの制限のないGWだが、私としては外に浮かれていられる状況ではない。ウクライナ情勢に怯え、コロナの状況を憂い、知床半島の観光船事故の社長に憤激を覚えつつ、自宅で軽い仕事をしたり、映画をみたりして過ごしている。

 オペラ映像を数本みたので感想を記す。

 

ヤナーチェク 「イェヌーファ」20212月 ベルリン国立歌劇場

 無観客公演。大好きなオペラだし、好きな演奏家たちなのでとても期待していたのだが、実は少々期待外れだった。

 おそらく意図的だと思うが、演奏も演出も徹底的にローカル色を廃している。最初に聞こえてくる音からしてまさにインターナショナルであって、チェコの、と言うか、ヤナーチェク特有のイントネーションをまったく感じない。どういう理由でそのような感じがするのか、素人の私にはよくわからないのだが、ともかく、サイモン・ラトルの指揮からモラヴィア地方の片田舎の音が聞こえない。ヤナーチェクの音も聞こえない。

 ダミアーノ・ミキエレットの演出も、最初から最後まで、舞台を無機的なすりガラス状の衝立で囲んでいて、そこにはモラヴィアの自然も田舎の風俗もない。登場人物の服装もおそらく1980年前後のもの。氷が繰り返し強調されて舞台上に何度か現れるが、そのためにいっそう無機質な雰囲気が広がっている。

 これでは私の好きなヤナーチェクにならない。私の好きなヤナーチェクは、片田舎の理不尽な因習にしがみついたり、それに抗ったりしながら、すっきりした論理の通用しない世界でそれぞれ依怙地な世界観を持って生きている人たちの魂の叫びの物語だ。まさにローカルな人々の生。ところが、ラトルとミエキレットのこの舞台は、むしろローカル色の捨象された冷徹な世界になっている。これだとヤナーチェクの最大の魅力が殺されてしまうと思うのだが・・・。

 歌手陣はワーグナーなどを歌う大歌手たち。イェヌーファは今やドイツ、東欧系のオペラの最大のソプラノといえるカミラ・ニールンド、ラツァは現在最高のヘルデンテノールと言うべきステュアート・スケルトン、そして、コステルニチカは最高のブリュンヒルデの一人だったエヴェリン・ヘルリツィウス。まさに圧倒的な大豪華メンバーによる見事な歌。ただ、やはりこの歌手たちも、無機質に聞こえて、私の心には響いてこない。

 ラツァが巨漢であるのはこれまでの演出からすると異様な感じがするが、現代の西洋社会で、どうやら恵まれない人であればあるだけ肥満しているといえそうなので、それはそれでリアルだといえるだろう。

 

プロコフィエフ 「炎の天使」20213月 アン・デア・ウィーン劇場

 無観客公演。演奏的には、あまり突出はしていないと思うが、よくまとまった良い演奏だと思った。レナータのアウシュリネ・ストゥンディーテ、ルプレヒトのボー・スコウフスはいずれも演技も含めて、なかなかの力演。コンスタンティン・トリンクスの指揮するウィーン放送交響楽団も切れの良い鋭利な音を出して、とてもいい。

 ただどうも私はアンドレア・ブレートの演出が煩わしくて仕方がなかった。狂気の世界を描くオペラなので、これまでみたこのオペラの演出も、台詞には現れない様々な人間や小道具を出して怪奇的、狂気的な雰囲気を出していたが、今回の演出はそれがあまりに甚だしい。精神病院の奇態な仕草をする人々がどの場面にも登場し、あちこちで意味ありげな奇怪な行動をとる。そうなると、私のような人間は音楽に集中できなくなる。オペラ全体の印象も散漫になる。演出意図も伝わらなくなる。私はそもそもこのオペラにあまり精通していないので、結局何のことやらさっぱりわからずに終わってしまった。

 なお、プロコフィエフはウクライナ生まれのロシア人とのこと。今回のロシアによるウクライナ侵攻に対してどのような立場をとるタイプの人だったのか、実は良く知らない。

 このオペラについても、そしてプロコフィエフという作曲家についても、そのうちもっと深く知りたいと思った。

 

ウェーバー 「魔弾の射手」 20186月 ウィーン国立歌劇場

 発売されたばかりだと思うが、コロナ前の映像。ちゃんと観客が入っている。

 まず、クリスティアン・レートによる演出について、私はとんでもないと思う。本来なら、マックスは猟師であって、スランプに陥ったために悪魔と取引して射撃大会に優勝しようとする話なのだが、この演出ではマックスは作曲家という設定。スランプに陥ったためにインスピレーションを得るために悪魔と取引しようとする話になっている。

 こうなると、あれこれ無理が出てくる。そもそもこのオペラは森の中の話であって、そのような雰囲気に魅力があるはずなのだが、それが成り立たない。結局、お笑い「魔弾の射手」のようになってしまった。演出家がこのようなバカげたことを思いついたにしても、誰か止めなかったのだろうか。

 演奏も私はあまりおもしろいと思わなかった。トマーシュ・ネトピルの指揮があまりに緩慢。繊細に演奏しようとしているのかもしれないが、勢いがなく、無駄が多い気がする。演出も、おどろおどろしくしているが、何しろトンデモ設定なので、失笑しかわかない。

 アガーテを歌うカミッラ・ニールンドはさすが。美しい張りのある声。しかし、マックスのアンドレアス・シャーガーもエンヒェンのダニエラ・ファリーも、もっといい歌手のはずなのに声が伸びていない。

|

« METライブビューイング「ナクソス島のアリアドネ」 | トップページ | 映画「メイド・イン・バングラデシュ」 まっすぐな映画! »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« METライブビューイング「ナクソス島のアリアドネ」 | トップページ | 映画「メイド・イン・バングラデシュ」 まっすぐな映画! »