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バーエワ&ヤノフスキ&N響 苦手な曲に感動!

 2022514日、東京芸術劇場でNHK交響楽団の定期演奏会を聴いた。指揮はマレク・ヤノフスキ。曲目は前半にヴァイオリンのアリョーナ・バーエワが加わってシューマンのヴァイオリン協奏曲、後半にシューベルトの交響曲第8番ハ長調「ザ・グレート」。

 実は、2曲とも私の苦手な曲。だが、バーエワもヤノフスキも大好きなので、どんな演奏を聴かせてくれるかを楽しみにして出かけた。思った以上に楽しめた。

 私はシューマンのヴァイオリン協奏曲はあまりに執拗な繰り返しにウンザリする。この曲を聴くたびに、やはりシューマンは精神を病んでいた!と強く思ってきた。ところが、驚くべきことに、バーエワの演奏を聴くと、まったくそのようなことを感じない。メロディがとても内省的でロマンティック。しかも、繰り返されるたびにニュアンスが異なる。シューマンの、そしてバーエワ自身の心の襞の一つ一つが繊細に描かれるかのよう。しなやかで詩的で、ちょっと感傷的。だが、知的に構築されているので、形は崩れない。素晴らしいヴァイオリンだと思った。ぐいぐいと心の迫る演奏だった。

 バーエワは出身国付近での戦争に心を痛めていること、平和のために演奏したい…といったことを英語で話した(聞き取りやすい英語だったので、その程度はわかった)後、ヴァイオリンのアンコールとしてバッハの無伴奏曲を演奏。たぶんソナタの第二番のアンダンテ・・・。これも真摯な美しい演奏。

 シューベルトの「ザ・グレート」のほうは、これまで、私はきれいな歌が継ぎ足されて次々と続くだけでメリハリのないとてつもなく長い曲だと思って敬遠してきたのだった。昔レコードの時代には繰り返し聴いて理解しようと努力したが、CDの時代になってからは数えるほどしか聴いていないし、実演もほんの数回聴いた程度だと思う。だから、偉そうなことは何も言えない。

 しかし、ヤノフスキの演奏を聴いて、しっかりと構築的であり、メリハリがあり、ロマンティックな盛り上がりのある曲だと感じた。素晴らしい演奏! 初めて、この曲を聴いて感動した。もしかしたら、ものすごい名演では?

 大袈裟な思い入れなく、推進力のある音で音楽が展開されていく。シューベルトという多感な青年の心の旅がロードムービーのようにたどれる。張りのある強い音でロマンティックな思いが語られる。N響の音もとても美しい。時にベートーヴェンのような強い音になりながらも、内省に戻っていくところがいかにもシューベルトらしい。ヤノフスキはそうした心の揺らぎなども深い音楽にしていく。

 大変満足なコンサートだった。

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コメント

私は翌日行きました。シューベルトの「グレート」、よかったですね。桁外れのスケールの大きさと豪快さだったと思います。N響としても近年まれにみるドイツの巨匠的な演奏だったのではないでしょうか。

投稿: Eno | 2022年5月16日 (月) 18時16分

Eno様
コメント、ありがとうございます。
ブログ、拝見しました。「ザ・グレート」、まったくおっしゃる通りだと思います。確かに巨匠の演奏でした。これからもできるだけ聴きたいと思っています。

投稿: 樋口裕一 | 2022年5月18日 (水) 12時13分

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