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オペラ映像「神々の黄昏」「カプレーティとモンテッキ」「こうもり」

 新型コロナウイルスもかなり落ち着いてきた。ウクライナ情勢は、厳しさを増しているが、敵の広い土地を長期間支配するのは難しい。今後、ロシアは大きな重荷を背負うことになりそうだ.

 オペラ映像を数本みたので、感想を記す。

 

ワーグナー 「神々の黄昏」2013629日 ソフィア国立歌劇場 

「ニーベルングの指環」のこれまでの3作をみて、かなりレベルの低い上演だということは十分に承知していたが、毒を食らわば皿までというか、怖いもの見たさというか、ついでだから最後の「神々の黄昏」までみてみた。

 これまでの3作よりはいくらか鑑賞に堪えるかもしれないが、やはり高レベルではない。ともかく、パヴェル・バレフ指揮のソフィア国立歌劇場管弦楽団とソフィア国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ヴィアレタ・ドミトローヴァ)の精度があまりに低く、音程が悪く、音が濁ってどうにもならない。それでも初めのうちは何とか食らいついているが、途中で息切れしたようで、プロの演奏とは思えないほどの響きになる。一つ一つの楽器の音も貧弱、縦の線もそろわない。昔のソフィア国立歌劇場はこのようなことはなかったはず。グローバル化によって、優秀な人材は国外に出てしまったということなのか。

 歌手陣はかなり健闘。ジークフリートのコスタディン・アンドレーエフは声のコントロールは甘いが、よく声が出ている。ただ、愚かなジークフリートを演じようとしているのだと思うが、それにしてももう少し演技力がほしい。「これではただの愚か者ではないか」と突っ込みたくなる。ハーゲンのペタル・ブチコフも悪役らしい声で悪くないが、音程が少し甘い。アルベリヒのビセル・ゲオルギエフとブリュンヒルデのヨルダンカ・デリロヴァはこのメンバーの中では突出している。とりわけ、デリロヴァは容姿もいいし、声も美しい。しかし、バックがあのオーケストラでは感動するのは難しい。「ジークフリートの葬送」も「ブリュンヒルデの自己犠牲」もオーケストラの音にげんなりする。

 プラーメン・カルタロフの演出は、奇抜な色遣い、トランポリンで飛びながら歌うラインの娘たち、抽象化され、いわば漫画のような大道具などが出てくるが、別段、目新しい解釈があるわけではない。

 このオーケストラの実力だったら、ワーグナーを上演するべきではないと私は思う。

 

ベッリーニ 「カプレーティとモンテッキ」 2015118日 フェニーチェ歌劇場

 発売されたばかりだと思うが、2015年の上演というから、コロナ前。

「ロミオとジュリエット」の別ヴァージョン。シェークスピアに基づかないので、少し話が違うが、まあ大筋は同じ。ベッリーニらしい凛として気高い歌が続くが、台本がよわいせいか、ドラマとしての盛り上がりには少し欠ける。

 演奏は悪くない。ロメオのソーニャ・ガナッシとジュリエッタのジェシカ・プラットはさすがのスターで、声も伸びており、美しい声で説得力を持って歌う。ただ、圧倒的な歌というほどではない。カペッリオのルーベン・アモレッティは深い声でとてもいい。テバルドのシャルヴァ・ムケリアは後半、疲れたのか声が出なくなる。ロレンツォのルーカ・ダッラミーコはやや存在感が薄い。

 指揮はオメール・メイア・ウェルバー。先日みた「パルジファル」の指揮者だが、「パルジファル」よりもこちらのほうがずっといい。起伏があり、オーケストラの掌握は見事だと思う。アルノー・ベルナールによる演出は、まるで泰西名画のような世界を作り上げている。額縁に入れておきたくなるような、まさにヨーロッパの絵画で何度も描かれてきたような場面が展開され、事実、最後に額縁に収まる形で幕が下りる。逆にいえば、このようなロメオとジュリエッタの物語は、あまりリアリティを持たず、過去の額縁の中の世界として意味を持つともいえるだろう。

 

ヨハン・シュトラウスII世 オペレッタ「こうもり」2003年 グラインドボーン歌劇場

 初めてのつもりでブルーレイディスクを購入したが、みているうちに既視感を覚えた。家のどこかにこの上演のDVDがあるのかもしれない。が、画質音質ともに向上しているだろうから、新たに購入してよかったことにしよう。

 とても楽しい上演だ。私はかつてカラヤン指揮、フィルハーモニア管弦楽団のレコードでこのオペレッタを知り(シュヴァルツコップのロザリンデが最高!)、カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立歌劇場の映像でこのオペラを楽しんだ(クライバーが物凄い!)。それに比べると、指揮者も歌手たちも小粒だが、しかし、十分におもしろいし、十分に楽しい。

 ロザリンデのパメラ・アームストロング、アイゼンシュタインのトーマス・アレン、アデーレのリューボフ・ペトローヴァが実にいい。大人の芝居を見せてくれるし、声も美しい。そして、オルロフスキー公爵のマレーナ・エルンマンが声のテクニックを駆使してとても魅力的にこの不思議な人物を演じてくれる。ヨハン・シュトラウスが設定したよりはかなり年上になってしまっていると思うが、そうでなければこんな成熟したオペレッタは上演できないだろう。

 指揮はウラディーミル・ユロフスキ。あちこちにニュアンスを加えて、ちょっといじりすぎている気がしないでもないが、そうであるがゆえに深みと活力のある音楽が生まれているのだと思う。ロンドンフィルの音も素晴らしく美しくて繊細。

 フロッシュを演じるのはウード・ザーメル。歌なしの役なのできっと有名な役者さんだと思うが、最後、カーテンコールの際、オーケストラでラデツキー行進曲が演奏され、そこで指揮をするのがこの人。いったい、何者?

 グラインドボーンの出し物だけあって、芝居としても洗練されており、申し分ない。

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