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映画「帰らざる河」「麗しのサブリナ」「アラベスク」「オールウェイズ」

 ウクライナ戦争はますます悲惨になり、新型コロナウイルスの第七波がどうやら始まったようであり、しかも安部元総理の暗殺がおこった。暗澹たる気持ちになる。世も末だといいたくなる。

 安部総理暗殺は、テロというよりは、秋葉原の事件や登戸の事件、あるいは電車の中での襲撃事件と同じような自暴自棄になった人間のしでかした暴挙なのだろう。だが、そのような人物が出現したこと、しかもそれを防ぐはずの警備がまったく機能していなかったことに対しても、日本社会の劣化を嘆きたくなる。今回の事件で浮き彫りになりつつある宗教の自由の問題も、改めて考えるべき課題だろう。オウム真理教を筆頭に、間違いなく宗教は人心を惑わし、社会に攻撃を加え、人間の知性をむしばむものになっている。ネット社会になった今、従来の信仰の自由、宗教団体への税制優遇をかつてのままにしておくのは好ましくないだろうと思う。

 そんな中、NHKプレミアムで放送された映画を何本かみたので、簡単に感想を記す。

 

「帰らざる河」 1954年 オットー・プレミンジャー監督

 以前、一度みた覚えがある。マリリン・モンローが亡くなったとき、私はまだ子どもだったので、その魅力を知ったのはずっと後になってからだったが、この映画こそ、「確かにマリリン・モンローはすごくいい女だ!」と最初に思った作品だった。今、再びみると、映画としては突っ込みどころ満載。だが、モンローは圧倒的な魅力を発散する。

 いわゆる西部劇。原住民(いわゆるインディアン)が無前提の悪として描かれ、男は力づくで女性に迫り、子どもが銃を撃つのも当たり前・・・という世界観は現在では信じられないが、確かに私たちの世代はこのようなアメリカ映画を見て育った。

 友人を救うために人を殺して服役していたマット(ロバート・ミッチャム)は子どもとともに畑を作っている。いかだで漂流しているハリー(ローリ・カルホーン)とその愛人ケイ(マリリン・モンロー)を助けるが、ハリーは逆にマットの銃と馬を奪って、ケイを残したまま逃げてしまう。先住民に追われて家に住めなくなったマットは息子やケイとともに、激流や先住民からの攻撃、ならず者からの横やりなどを交わしながら、いかだで下って町に向かう。そうするうちに、マットとケイの間に恋が芽生え、最後には、かつて酒場の歌手だったケイもマットや息子とともに暮らすことを選ぶ。そんなストーリー。

 要するに、金に目がくらんで豪華な生活を夢見るゴールドラッシュの西部を題材にして、堅実に家族を愛して、自分で自分の身を守って生きよう、というテーマの映画。とてもよくできている。それにしても、モンローは歌もうまく、本当に色気のある女優さん。しかも、とても上品な色気。伝説の女優であることが納得できる。

 

「麗しのサブリナ」 1954年 ビリー・ワイルダー監督

 昔みたことがあるような気がしていたが、もしかしたら勘違いだったかも。まったく覚えがなかった。巨大企業を経営する富豪の車の運転手の娘サブリナ(オードリー・ヘプバーン)は富豪の次男デヴィッド(ウィリアム・ホールデン)をひそかに愛している。料理の勉強のために、パリで二年間過ごして、エレガントな女性として帰国。たくさんの女性と浮名を流し、それまで見向きもしなかったデヴィッドはサブリナに恋をする。デヴィッドをほかの女性と結婚させて会社拡大に利用しようとしていたデヴィッドの兄のライナス(ハンフリー・ボガート)は弟とサブリナを別れさせようとするが、自分がサブリナに恋をしてしまう。仕事人間で実直なライナスをサブリナも愛するようになる。すったもんだの末、サブリナとライナスが結ばれる。

 ワイルダー監督らしい気のきいたセリフ、軽妙な展開。ラブロマンスとしてとてもおもしろい。ヘプバーンも実に魅力的。ただ、ホールデンもボガートも若々しいヘプバーンにふさわしくないかなりのおじさんに見える。調べてみたら、この年、ホールデンは30代後半(今の日本人の感覚では50歳くらいに見える!)、ボガートは55歳(今の感覚からすると65歳くらいに見える)。二人が大スターだったのは分かるが、もう少し若い俳優はいなかったのだろうか。

 

「アラベスク」 1966年 スタンリー・ドーネン監督

 1963年の「シャレード」と同じドーネン監督の作品。雰囲気がとてもよく似ている。いったい誰が味方で誰が敵なのか二転三転し、本物と偽物が入り混じる。ユーモアにあふれたセリフ、センスのいい展開。今どきの映画のような激しいアクションはないが、まさに大人のサスペンスドラマ。楽しんでみることができた。

 古代の暗号と思われる絵文字の解読を大学教授(グレゴリー・ペック)が依頼されたために中東の国の陰謀に巻き込まれる。ストーリーはまあ特にどうということはない。グレゴリー・ペックは余裕のある演技。ユーモラスでとても魅力的。ただ私は、昔から現在に至るまで、謎の女を演じるソフィア・ローレンをきれいだと思ったことは一度もない。いや、それどころか、どちらかというと不美人の方だと感じる。それに対して、オードリー・ヘプバーンは飛び切りの美人だと思うので、必然的にこの「アラベスク」を「シャレード」と比べると、感銘度は天と地ほど差がある。

 

「オールウェイズ」 1989年 スティーヴン・スピルバーグ監督

 事故で亡くなった消防飛行隊の腕利きのパイロット、ピート(リチャード・ドレイファス)は、ゴーストになって愛する恋人ドリンダ(ホリー・ハンター)や消防飛行隊の訓練生を守るが、ドリンダは若き訓練生に恋するようになる。ピートは苦しむが、あきらめてドリンダの幸せを祝福しようとする。

 あちこちの場面にスピルバーグの力量が現れ、もちろんとてもよくできているのだが、映画としてはあまりおもしろいと思わなかった。この数年後に作られて日本でも話題になった「ゴースト/ニューヨークの幻」のほうが感動的でおもしろかった。「ゴースト」の後で見たせいもあってか、ややありきたりの気がするほど。

 ピートにゴーストの心得を教える先輩ゴーストというべき女性の役をオードリー・ヘプバーンが演じている。ヘプバーン最後の映画となった。世俗の欲を捨てた天使のような女性に見える。素晴らしい。

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