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マナコルダ&紀尾井管 悲劇性の増した「スコットランド」

 東京都の新型コロナウイルス感染者が3日連続で3万人を超えたという。重症化している人は決して多くはないとはいえ、病床ひっ迫すると、あれこれと困ったことになる。ともあれ個人としては用心を重ねるしかない。

 2022723日、紀尾井ホールで、紀尾井ホール室内管弦楽団の定期演奏会を聴いた。指揮はアントネッロ・マナコルダ、曲目は、前半にシューマンの「序曲、スケルツォとフィナーレ ホ長調」と、コントラバスの池松宏が加わって、トゥビンのコントラバス協奏曲、後半にメンデルスゾーンの交響曲第3番イ短調「スコットランド」。

 マナコルダはこれが指揮者としては最初の日本公演だというが、ヨーロッパでは知られた存在らしい。私はこの度、初めてこの指揮者の存在を知ったのだった。1970年生まれだというから、もう50歳を少し過ぎているが、指揮者としてまだ若手といえるだろう。

 とても真摯で堅実な指揮ぶりだと思う。誇張することなく、遊びを加えることなく、中身の詰まったしっかりした音で突き進んでいく。とても好感を持った。ただ、シューマンの曲では、そうであるがゆえにちょっと一本調子になっているのを感じた。もう少し脚色してくれてもいいのではないかと思ったのだったが、きっとこの指揮者はそういうことをしないのだろう。トゥビンの曲はコントラバスの池松宏のテクニックが冴えて、とても楽しく聞くことができた。

「スコットランド」もまさに真摯な指揮ぶり。ビシビシと音を重ねる。あまりヴィブラートをかけないまっすぐな弦の音のために緊迫感が増す。そうなると、メンデルスゾーンの悲劇性が浮かび上がってくる。リズミカルで生気にあふれたメンデルスゾーンではない。古典的な様式の中にロマンティックでのびのびとした、いかにも育ちの良い精神を持ったメンデルスゾーンではない。むしろ悲劇性を秘め、激しい思いを吐露するかのようなメンデルスゾーン。なるほど、メンデルスゾーンの生涯は決して恵まれてばかりではなかった。こんなアプローチもあるのだろう。ただ、紀尾井ホール室内管弦楽団は大健闘をしているとはいえ、少し音楽が停滞するのを感じないでもなかった。もうすこしアンサンブルが緻密であれば、もっと深い感動が得られただろう。

 ところで、四ツ谷駅から紀尾井ホールまでの往復を歩いたが、久しぶりににぎやかなセミの声を聴いた。私の自宅のある東京都のはずれでは、今年はなぜかセミの鳴き声をほとんど聞かない。暑苦しい鳴き声だが、聞こえてこないと心配になる。自然破壊が進んでいるのだろうか。天候不順の影響だろうか。ともあれ、都心で耳にできてちょっと安心した。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

私も昨日、紀尾井ホールに行ってきました。事前に樋口様のブログを読んでいたので、セミの声を楽しみにしていました。期待通りの声でした! 夏の盛りを感じました。
四ツ谷は私が大学を出てから務めた場所です。就職先はその後、お茶の水に移転しましたが、四ツ谷のほうが懐かしいです。
久しぶりに四ツ谷に行きましたが、いまは気持ちの張りも、肉体的にも、昔とちがって衰えていることを感じました。
いやですね。

投稿: Eno | 2022年7月25日 (月) 11時25分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。私は九州の田舎育ちですので、夏はセミの声に囲まれて生活していました。九州のセミは、ワシワシワシワシ・・・と鳴くクマゼミが多いので、耳をふさぎたくなるほどでした。そんなセミも聞こえなくなると残念でなりません。紀尾井ホールへの道で本当にうれしく思ったのでした。
私は7月のはじめから早稲田エクステンションセンターの講座のために、大隈講堂の横に週に一回通っています。昔なじみの場所に行くと、周囲の変貌とともに、自分の状況の違いに愕然とします。
ブログをしばしば読ませていただいております。「ペレアスとメリザンド」演出についてとりわけ興味深く読ませていただきました。なるほど!と思いました。ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2022年7月26日 (火) 08時32分

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