映画「武器よさらば」「レインマン」「レナードの朝」「グッドウィル・ハンティング」「ペンタゴン・ペーパーズ」
これまで、テレビでみた映画についてあまり感想を書かなかった。だが、もちろん、テレビ東京の昼間に放送される映画番組はかなりみているし、BSプレミアムの字幕による映画もかなりみる。
そんなわけで、NHKのBSプレミアムで放送された数本の映画の感想を簡単に記す。
「武器よさらば」 1957年 チャールズ・ヴィダー監督
みはじめてしばらくしてから、昔々、一度みて、つまらないと思ったのを思い出した。50年ぶりくらいに改めてみて、やはりつまらないと思った。異様なほどにつまらない。
戦争の場面が時折挟まれるが、戦争が描かれているわけではない。兵士の状況などが深く描かれているわけでもない。原作はヘミングウェイだが、独特の世界観が現れているわけでもない。信仰の問題にも触れられるが、あまりに表面的でリアリティがない。戦争を背景に、美男美女の浮世離れしたメロドラマが展開されるだけ。「いい男というのは、こんなに簡単にモテて、こんなに好き勝手なことをして許されるのか!」といった俗っぽい感想しか持つことができない。ロック・ハドソンもジェニファー・ジョーンズもあまり魅力的に描かれない。スパイとみなされて銃殺されるイタリア人軍医役のデ・シーカだけがいい味を出している。アメリカのメロドラマの悪しき典型のような作品だと思った。
「レインマン」 1988年 バリー・レヴィンソン監督
疎遠だった父の死後、自閉症の兄(ダスティン・ホフマン)がいて、その兄が父の遺産の大半を継ぐと初めて知った弟(トム・クルーズ)。遺産を奪い取ろうと画策するうちに兄の能力、人間性を知り、兄に共感していくという物語。世間で言われているほどおもしろいとは思わなかった。あまりにありがちなテーマも少し安易だと思った。それに、私は身勝手な弟にも共感できず、ここに描かれる自閉症の兄の行動を許容することもできないと思った。アメリカ映画は、どのくらい共感できたかが大事なポイントになると思うが、その点で私はこの映画には入り込めなかった。ただ、ダスティン・ホフマンの演技力には感服。
「レナードの朝」 1990年 ペニー・マーシャル監督
実話に基づくという。セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が病院に赴任して、ほとんど人間活動をできない特有の病状を示す精神科の患者の治療にあたる。画期的な治療法を編み出して、一時的に患者のほとんどが回復するが、全員が元に戻る。
最初の治療を施したレナード(ロバート・デ・ニーロ)と医師との交流、その心の動きを描く。生きることの意味を問いかける。佳作だと思う。ウィリアムズとデ・ニーロの演技は見ごたえがある。ただ、それ以上の感動はあまり覚えない。
「アンダーグラウンド」 1995年 エミール・クストリッツァ監督
カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞作品ということだが、私にはまったくおもしろくなかった。フェリーニ張りの狂騒的な演出によって飲んだくれの夢想のような雰囲気の映画だが、フェリーニとの才能の違いはいかんともしがたいと思った。
第二次大戦中のユーゴスラヴィアの暗黒世界で活躍するマルコとその友人クロ。そして、二人の間で揺れ動く女優ナタリア。ドイツ軍の侵攻に対してマルコとクロは抵抗し、マルコはユーゴの英雄となるが、恋敵のクロをだまして、戦争は終わっていないと信じ込ませ仲間たちとともに巨大な地下室に閉じ込める。クロたちは、地下室でドイツ軍への抵抗の準備を進めながら、一つの社会を形作っている。そして、ユーゴ紛争が起こった1990年代に、クロたちはふとしたことから地上に出て、セルビア、クロアチア戦争を目の当たりにして大混乱を起こす。
まあ要するに、第二次大戦の意識がユーゴ内戦にまで残り、ついには兄弟までが殺しあう状況を描くことで、ユーゴ内戦を戯画化した映画ということができるだろう。かつてのユーゴスラヴィアが陥ったあまりに絶望的な状況を描くには、このようなしっちゃかめっちゃかなブラックユーモアにするしかなかったといえるのかもしれない。ただ、私がユーゴスラヴィアの状況をよく知らないせいかもしれない(1980年代にユーゴスラヴィアを旅したことはある!)が、悪ふざけをリアルに感じることができず、あまりに空疎に思えた。
「グッドウィル・ハンティング」 1997年 ガス・ヴァン・サント監督
恵まれない育ちながら、数学の天才であり、ほかの領域でもずば抜けた能力を持つ青年(マット・デイモン)。自分の能力を持て余し、社会に反抗しながら生きている。ところが、その才能に気づいた数学教師が手助けし、心理学教師(ロビン・ウィリアムズ)が生身の人間どうしのコミュニケーションを深める。そうしてやっと青年は心を開き、自分の能力を社会に役立てようとするようになる。当時無名だったマット・デイモンの脚本だという。
よくできた映画だが、世をすねた主人公の思考回路を十分に理解できなかった。私は、アメリカの若者と似た青春時代(車で出かけ、ロックっぽい音楽を聴いてパーティやダンスや酒場で楽しむ・・・)を送っていないせいか、どうもこのような若者に共感できずにいる。ロビン・ウィリアムズの演技には圧倒されたし、ともあれおもしろく見たが、それ以上ではなかった。
「ペンタゴン・ペーパーズ」 2017年 スティーヴン・スピルバーグ監督
ベトナム戦争はアメリカの敗北に次ぐ敗北であり、この戦争に勝算はないことを政府は知っていたのに、若者を絶望的な戦場に送り込んでいた。それに気づいたペンタゴン職員が文書を新聞に極秘に流し、ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙がニクソン政権から激しい圧力を受け、新聞の存亡の危機を意識しながらその文書を掲載する。その様子を、ワシントン・ポストのオーナー(メリル・ストリープ)と編集長(トム・ハンクス)に焦点を当てて描く。
それだけなのだが、さすがスピルバーグ。政府関係の友人や経営面の心配、法的な問題で葛藤するオーナー、新聞の役割を追いかける編集長をリアルに描いて、見るものは手に汗握ることになる。語り口のうまさに圧倒されつつ、そしてそこに込められた社会的メッセージに共感する。報道の自由の大切さ、新聞の役割・・・。同時に、メリル・ストリープやトム・ハンクスをはじめとする役者たちの力量にも圧倒される。
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