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東京二期会「パルジファル」 好みの演奏・演出ではなかったが、素晴らしかった

 2022716日、東京文化会館で東京二期会公演「パルジファル」をみた。指揮はセバスティアン・ヴァイグレ、演出は宮本亞門。

 ヴァイグレの指揮は、いかにもこの人らしいといえるだろう。かつて私がなじんだクナッパーツブッシュの指揮した演奏のような重々しさや厳粛さはまったくない。うねるような激しさもない。穏やかでしなやかでのびのびとした音。少し前の私だったら、「なんと生ぬるいパルジファルだ」と思ったかもしれない。そして、私がしばしば退屈に感じたのも事実だ。だが、しみじみと美しい。なるほど、このような「パルジファル」もあるだろうと思わせるだけの説得力がある。私が最も好むタイプの演奏ではなかったが、しっかりと味わうことはできた。

 歌手陣はきわめて充実していた。最も感銘を受けたのは、クンドリの田崎尚美だ。この役にふさわしい強靭で美しい声。姿かたちも舞台映えする。グルネマンツの加藤宏隆もこの役にふさわしいどっしりとした声で、最後まで疲れを見せずにきれいに歌った。素晴らしい歌手が出現したものだ。パルジファルの福井敬も、この役にふさわしい張りのある美声。アムフォルタスの黒田博は、初めのうちこそ少し声が出ていない気がしたが、もしかしたら少しセーブしていたのか。すぐに持ち直して、この役にふさわしい絶望の表現を聞かせてくれた。そしてクリングゾルの門間信樹もほかの歌手たちにまったく引けを取らない見事な声。このところの二期会の充実ぶりに目を見張った。

 なお、14日と17日のティトゥレル役に予定されていた長谷川顯さんが亡くなったことを先日の新聞で知った。素晴らしい歌を何度か聴かせていただいた。合掌。

 宮本亞門の演出については、第一幕をみた時点では、わけがわからんと思った。パルジファルとそっくりの服を着た子どもと、どうやらその母親らしい女性が出てきて、黙役であれこれと小芝居をする。すべての幕を通して、美術館が舞台になっている。類人猿から人間にいたる進化の過程を表す立像が置かれており、オラウータンがしばしば動き回る。

 細かい一つ一つの動作の意味についてはよくわからない。だが、第二幕、第三幕と見続けるうち、感覚的に共感できるようになった。演出家は、このオペラを過去のキリスト教社会だけの問題ではなく、普遍的な人間性(博物館にはL’humanitéという表示がある)の問題としてとらえようとしている。そのために、過去のパルジファルの話とともに、現代の子どもと母親の葛藤の物語が加わる。純粋な愚か者が世界を救うというメッセージを普遍的、宇宙的な物語として展開しようとしている。それが理解できた。

 読み替え演出は私は大嫌いだが、これは読み替えではなく、現代にワーグナーの精神を押し広げて表現しているのだと思う。このような演出については、私は大歓迎だ。

 細かいところを言えば、私の好みとは異なるところももちろんあった。だが、とてもレベルの高い素晴らしい上演だった。満足。やはりワーグナーは最高だ!

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