新国立劇場オペラ研修所試演会「領事」 謎のオペラだったが、楽しんだ
2022年7月18日新国立劇場オペラ研修所試演会、ジャン・カルロ・メノッティ作曲のオペラ「領事」をみた。ピアノ2台(岩渕慶子・星和代)による伴奏。指揮は星出豊、演出は久恒秀典。出演はオペラ研修所第23・24・25期生を主とするメンバー。
英語のオペラは聴きなれないので、初めのうちは少々戸惑った。しかも、私はこのオペラを数日前に初めてDVDでみたが、ドイツ語版だったので比較することができない。ただ、やはりちょっと英語の発音がネイティブとは違っていそうだなとは思った。
とはいえ、マグダの大竹悠生は張りのあるしっかりした声で音程もよく、訴える力を持っていると思った。秘書の大城みなみもこの役にふさわしい凛とした姿と声で魅力的だった。ジョン・ソレルの佐藤克彦もしっかりした音程の良い声。演技の面では三人とも少しぎこちなかったが、研修所試演会でこれだけ演じることができれば、たいしたものだ。
そのほか、母親の前島眞奈美は、少し音程が不安定なところがあったが、全体的にはとても魅力ある歌を聞かせてくれた。異国の女の冨永春菜もコフナー氏の松中哲平も秘密警察官の松浦宗梧もよかった。
指揮、そしてピアノもとても緊張感にあふれ、時にはオーケストラのような色彩感も示して、とてもよかった。演出も、簡素ではあるが、音楽とぴたりと合っているのを感じた。
新国立劇場オペラ研修所試演会はこれまでも何度かみた。これまでの公演では音程の狂いなどが気になることがあったが、今回はそのようなことはあまり気にならなかった。めったに上演されないオペラに意欲的に取り組んでくれるのはとてもうれしい。
ただ実は、まだ「領事」というオペラがつかめずにいる。このオペラは独裁国から逃れようとする人々に救いを差し伸べなかった各国の領事を告発するものととらえられるが、それにしてはよくわからない場面がある。領事館に押しかけている人々(特にイタリア女、奇術師)にどんな意味があるのか、最後の場面で死にゆくマグダの夢(この場面は、私のみたDVDにはなかった!)にはどんな意味があるのか、赤ん坊の死、母親の死というきわめて重大なはずの出来事がなぜあっさりと描かれているのか。なぜ「領事」というタイトルなのに領事は登場しないのか。
考えてみようと思ったが、材料が少なくて、どうにもならない。そのうち新たな映像などが発売されたら、ぜひまた考えたい。とてもおもしろいオペラなので、またどこかで上演してくれると嬉しいのだが。
ともあれ、若い才能ある人たちの出演する、めったに上演されないオペラを見ることができて、とても満足だった。
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