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ロト&ケルン・ギュルツェニヒ ものすごい演奏!

 202273日、東京オペラシティ コンサートホールで、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団のコンサートを聴いた。曲目は、前半に河村尚子のピアノが加わってモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調、後半にブルックナーの交響曲第4番(第一稿)。ものすごい演奏といっていいのではないか。

 まず、モーツァルトの協奏曲。古楽的な奏法だと思う。弦のヴァイブレーションをほとんどかけず、直接的な音がする。そうであるだけに、ストレートに音楽が伝わってくる。しかし、そこから聞こえてくるのは、繊細で親密でしなやかな音。そして、河村尚子のピアノがまたとてもしなやか。沈黙と語り合うかのように静かに、親密に音楽が進む。誇張のまったくない、平明で、真正面から純粋な音楽に向きあうような世界。そこから美しい音が紡ぎだされてくる。なるほど、これがモーツァルトの世界だと思った。モーツァルトの人生だの、深い人生観などという感じはあまりしない。ただ、純粋に音楽として美しいと思った。

 ピアノのアンコールはシューベルトの有名な「楽興の時」。まさに、モーツァルトの協奏曲を弾いた河村の気持ちだったのではないか。Moments musicaux! 肩の力を抜いて音楽そのものを喜ぶような音楽だった。

 後半のブルックナーは一層格別だった。まず、冒頭の弦のトレモロの美しさにびっくり。この今日の冒頭のトレモロについては、その昔、チェリビダッケの指揮したのを聞いて驚いた記憶があるが、それ以来、あまりの美しさに魂が震えた。しなやかで繊細でまさに天国的。

 ただ、そのあとのホルンはいただけない。音程が不安定で、その後も何度か音を外した。ほかの楽器はすべて完璧と思われるほどのすごさだったのだが、どうしたことか。私の席からは奏者は見えなかったが、同じ人物がずっとはずしていたのだろうか。

 それを除けば、本当に奇跡的にすごい音だった。第一稿なので、私がよく知るこの曲とはかなり異なっていた。このヴァージョンは実演や録音で何度か聴いたことがあるが、まだ十分になじめずにいる。とはいえ、あまりの音響のすごさに圧倒されるばかりだった。

 すべてに楽器の音が美しい。金管楽器の威力がすさまじいが、それが実にぴたりのタイミングでずしんと響く。楽器全体のバランスも楽器のつながりも、息をのむほどに絶妙。一つ一つの音が鮮烈というか、生き生きとしていて、なぜか魂にずしりと響く。しかもこれだけの音量ですべての楽器が鳴らされていても、音が濁らない。明るめの音だが、堂々たるブルックナーの音には違いない。あまり宗教性だの崇高さなどといったことは感じないが、ともあれ音楽としてすさまじい。どういう魔法なのだろう。指揮がよいのか、それほどまでに性能の良いオーケストラなのか。

 ただ、繰り返すが、このヴァージョンに私はあまりなじんでいない。それが残念だった。もう少しなじんだ曲を聞いてみたかった。

 明日のプログラムはなじんだ曲なので、ぜひチケットを購入したいと思ったのだが、考えてみると、私は明日の朝、4回目の新型コロナ・ワクチン接種を予定している。これまでの3回、接種日の夜から副反応が起こって、かなり苦しんだので、明日の夜は危険が大きい。今回はともあれあきらめるしかなさそう。

 しかし、それにしても、ロトの音楽は聞きしに勝る凄まじさだと思った。

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