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メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲に感動

 2022年9月10日、サントリーホール ブルーローズで「~ベルリン便り~メンデルスゾーンが聴きたい」と題されたコンサートを聴いた。妻の葬儀の後、二度目のコンサートだ。もちろん、チケットを購入したとき、妻の病の重さはわかっていたが、まさかこのコンサートが開催されるときにすでにこの世にいないなどとは思っていなかった。これから、私が出かけるコンサートのいくつかは、そのような思いを抱きながら聴くことになる。そのようにして音楽を聴きながら、私は少しずつ社会復帰を進めることになる。

 演奏は、ベルリン芸術大学で学んだ(学んでいる)石原悠企(ヴァイオリン)、野上真梨子(ピアノ)、藤原秀章(チェロ)。曲目は、前半にヴァイオリン・ソナタ へ長調 とチェロ・ソナタ 第2番、後半に、無言歌集から3曲とピアノ三重奏曲 第1番。

 私の席(最前列のピアノの前!)のせいかもしれないが、ピアノの音が強くて、楽器のバランスが悪く、初めのうち戸惑った。しかも、ピアノが若々しくがんがんと攻めるので、私としては少しつらかった。若々しい躍動を重視しているのかもしれないが、このようにピアノを鳴らすとどうしても一本調子になってしまう。とはいえ、石原悠企のヴァイオリンからは躍動感とともに、メンデルスゾーンらしい初々しい感性、かすかな憂いが聞こえてきて、とても魅力的だった。チェロ・ソナタの方も、ピアノにはもう少しニュアンスがほしいと思ったが、チェロはとてもニュアンス豊かで、しかも響きがよく、大きな包容力があって見事だと思った。

 後半のピアノ独奏による無言歌集は、もう少しピアノの旋律に「歌」がほしいと思った。「無言歌」と題されている割には、せっかくのメンデルスゾーンの初々しくほとばしり出るメロディが浮かび上がってこなかった。

 ピアノ三重奏曲第1番は素晴らしかった。まず、曲そのものが素晴らしい。メンデルスゾーンの傑作の一つだと思う。屈折のない、まっすぐな精神を感じる。真摯に物事にぶつかっていく律義さが全体を覆っている。屈折がない分、ちょっと単調ではあるが、メロディが美しく、構成がしっかりしているので、ぐいぐいと心に入り込んでくる。とりわけ第1楽章は悲劇的な気持ちを美しいメロディに託して歌い上げる。まさに感動的。第4楽章は、同じような音型が執拗に繰り返されるが、沈鬱だった気分が徐々に開放的になっていく。ベートーヴェンのいくつかの曲と同じようなに、沈鬱な表情が徐々に明るくなって、開放的になって音楽が終わる。

 ピアノの音も、この曲では私は気にならなかった。三つの楽器がしっかりと絡み合って、緻密な世界を作り上げていく。ピアノの音に歌心が足りないとは思うが、ヴァイオリンとチェロが補って強い思いが迫ってくる。終楽章には興奮した。

 アンコールはメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番の第2楽章。しっとりしたよい演奏だった。

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コメント

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番は私も好きで、一時期ずいぶん聴きました。しばらく遠ざかっていましたが、樋口様のブログを読んで、久しぶりに聴きたくなりました。私はこの年になってやっとメンデルスゾーンの良さがわかるようになった気がします。

投稿: Eno | 2022年9月11日 (日) 08時24分

Eno様
コメント、ありがとうございます。
私はかつてボザール・トリオのCDをよく聴いていました。ただ、私もこのところ、しばらくは弦楽四重奏は時々聴くものの、メンデルスゾーンの三重奏曲はあまり聴かなくなっていた気がします。久しぶりに聴いて、やはりメンデルスゾーンは素晴らしい、この曲は素晴らしいと思ったのでした。

投稿: 樋口裕一 | 2022年9月12日 (月) 09時04分

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