カサロヴァの歌曲の夕べ 重々しい歌い方にちょっと退屈した
2022年9月14日、紀尾井ホールでヴェッセリーナ・カサロヴァの「名作歌曲の夕べ」を聴いた。久しぶりのカサロヴァ。2009年の新国立の「チェネレントラ」以来だ。ピアノ伴奏はチャールズ・スペンサー。
最初のベルリオーズの「夏の夜」が始まったときは、ちょっと音程が不安定だと思った。声を十分にコントロールできていないようだ。だが、まるで男性のような凄みのある低音を響かせて、深く重々しく歌う。それはそれでものすごい迫力。しかも、まるでオペラのような振り付けをして、ゆっくりとドラマティックに歌う。ちょっと衰えは感じるものの、素晴らしいと思った。
だが、聴き進むうちに、私は退屈してきた。「夏の夜」の6つの歌をすべて同じように歌う。それだけでなく、後半のシューベルト(「漁師の歌」「水の上で歌う」)もブラームス(「わが恋は緑」「ひばりの歌」「永遠の愛について」)もブルガリア民謡も同じように超スローペースで重々しく歌う。これでは一本調子になってしまう。そして、それよりなにより、男のような低音で深く重くゆっくり歌うと、音楽が流れなくなってしまう。切れ切れに深く、重く歌うので、まるでブルースのような重い音楽になってしまい、チャーミングさがなくなり、どの曲も同じように聞こえる。
もちろん、これは意図的にしていることだろう。だが、きっとこれは、高音をコントロールできなくなって、やむなく選択したことではないのか。直球で勝負できなくなったピッチャーが変化球で勝負するように、声のコントロールができなくなって、重々しく低音を響かせてゆっくり歌う方法を選んでいるように思えた。それなりに見つけ出した表現の方法だとは思うが、やはりこれでは、ベルリオーズの「夏の夜」の、チャーミングで、しかも深みがあり、おどろおどろしさがあるという魅力が伝わってこない。そもそも、この曲も美しい旋律が流れてこない。シューベルトもブラームスも一様に重々しくなる。
アンコールは「カルメン」の「ハバネラ」。これまた男のような声を出して、重く歌う。それはそれで、もちろん迫力ある見事な歌で、今日のリサイタルでは最も洗練されていたが、私としてはこの重々しい表現に対して、「もうあきたよ」と言いたくなってしまった。
そんなわけで、期待して出かけたカサロヴァのリサイタルだったが、ちょっとがっかりして帰ったのだった。
重々しい曲もあっていい。だが、軽快でチャーミングな歌もあってほしい。ベルリオーズもシューベルトもブラームスも、そのように歌うべき曲があったはずだ。私はそのような歌を聴きたかった。
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