ヴァイグレ&読響の「ドイツ・レクイエム」 「人はみな草のようで」に涙した
2022年9月20日、サントリーホールで読売日本交響楽団定期演奏会を聴いた。指揮はセバスティアン・ヴァイグレ。曲目は、前半にダニエル・シュニーダー作曲の「聖ヨハネの黙示録」(日本初演)。後半にブラームスの「ドイツ・レクイエム」。
「聖ヨハネの黙示録」は2000年に作曲された曲だという。黙示録の言葉を歌詞にしているようだ。「ドイツ・レクイエム」と同じようにソプラノとバリトンの独唱と合唱による30分ほどの曲。調性のある音楽だが、きわめて劇的で神秘的で音が渦巻いている。ヴェルディの「レクイエム」の「怒りの日」のような雰囲気で音楽が展開していく。とても面白く聴くことができた。バリトンの大西宇宙もいいが、ソプラノのファン・スミがことのほか素晴らしい。ヴィブラートの少ない澄んだ声だが、きれいに伸びて、声量も豊か。宗教音楽にはこれ以上の声は考えられないほど。
「ドイツ・レクイエム」は素晴らしかった。ヴァイグレらしいしなやかな音。読響もヴァイグレの要求をしっかりと満たして、深い響きを出している。冒頭のヴィオラの音が全体の音楽を決定づけているように思えた。深く沈潜し、心の奥深くにしみこんでくる。いたずらにドラマティックにするのではなく、じわじわと盛り上げる。
私は第2曲「人はみな草のようで」が大好きなのだが、このじっくりとした盛り上がりはすさまじかった。合唱(冨平恭平合唱指揮・新国立劇場合唱団)もしっかりと声が出て、音程も安定している。人はみな草のようにすぐにしぼむ。人間のはかなさを思い知らせ、それを救う創造主をたたえる。歌詞を納得させる音楽だとつくづく思った。私は涙を流して聴いた。
全7曲が有機的につながっていることも納得できるような演奏だった。大きく盛り上がって、死を前にした人間の悲しみを歌い。永遠の生を与える神をたたえる。そして、静かに終息していく。この「ドイツ・レクイエム」においても、ファン・スミのソプラノがあまりに素晴らしい。本当に美しい声。
妻を亡くして一月ほど。レクイエムを聴くとやはりどうしても自分の状況と重ね合わせてしまう。他人事としてこの音楽を聴くことができない。私はキリスト教徒ではないので、永遠の神は信じない。だが、個々の人間の苦悩や悲しみの果てに、もっと普遍的な救いのようなものがあるのを信じたくなった。
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コメント
樋口様もこの演奏会にいらしたんですね。奥様を亡くされたばかりなので、「ドイツ・レクイエム」にさまざまな想いが去来したこととお察しします。私も聴いていたのですが、死と向き合うような思いがしました。私は3歳年上の妻と二人暮らしですが、いつかは、そう遠くない時期にどちらかが死ぬのだな、と思いました。
先日、ルイージ指揮のN響でヴェルディの「レクイエム」を聴きましたが、それ以来無性にブラームスの「ドイツレクイエム」が聴きたくなりました。実際にそれを聴いて、期待以上の感銘を受けました。
投稿: Eno | 2022年9月22日 (木) 08時30分
久しぶりのサントリーホール、読売日響、初めての実演での「ドイツ・レクイエム」。私も還暦を過ぎ、いつかは死と向き合う時期が来るのだと実感しました。
期待以上の演奏会でした。「聖ヨハネの黙示録」は面白い曲でまた聴いてみたくなる曲。全体的に好演で新国立劇場合唱団が特に素晴らしかった。久しぶりに強い感動を覚えた一夜でした。
投稿: スズシ | 2022年9月22日 (木) 08時44分
Eno様
コメント、ありがとうございます。
ブログを読ませていただきました。そうですね、字幕がついていたおかげで、一層深くブラームスの音楽を味わうことができたと私も思います。「死」について思いを深めざるを得ませんでした。
私は、ほかのレクイエムをききたくなって、帰って、さっそく、モーツァルトのレクイエムのチケットをとったのでした。
投稿: 樋口裕一 | 2022年9月23日 (金) 18時44分
スズシ 様
コメント、ありがとうございます。
そうですね、新国立劇場合唱団、素晴らしかったですね。日本が誇る合唱団になったことを強く感じます。
私は70歳を超え、妻に先立たれ、死がいよいよ身近になってきました。
投稿: 樋口裕一 | 2022年9月23日 (金) 18時48分