鈴木優人&BCJのモーツァルトのレクイエムはレクイエムらしくなかったが名演奏だった
2022年10月30日、東京オペラシティ・コンサートホールでバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏を聴いた。指揮は鈴木優人、曲目は前半にモーツァルトの交響曲第39番、後半にモーツァルトのレクイエム。
交響曲の演奏についてはあまりおもしろいと思わなかった。第2楽章があまりにゆっくりしたテンポで、私には平板に聞こえた。第3楽章にメヌエットもちぐはぐで、終楽章になっても生き生きとした感情が沸き上がってこなかった。勢いに欠け、ダイナミックさに欠けているように思った。
だが、レクイエムになったとたん、オーケストラは生き生きとした音を出し、合唱も見事にそろった。情感豊かで、深い思いが重なり、しかも音の一つ一つが生きている。BCJは合唱が加わると本来の力を発揮できるのかもしれない。
独唱陣も素晴らしかった。森麻季の透明な声は、とくに宗教曲に美しさを発揮する。藤木大地のアルトも、音程がよくて実に見事。テノールの櫻田亮も日本人離れした芯のある美声、バスのドミニク・ヴェルナールも安定した美声。
今回の演奏は鈴木優人による補筆校訂版とのこと。モーツァルトの遺稿、アイブラーやジュスマイヤーの補筆に基づいて再構成したものだ。「ラクリモザ」の後にアーメンコーラスが入ったが、プレトークによれば、それはモーツァルトの自筆譜の中にあるとのことだった。
ただ、私のような素人には、「あれ、こんな楽器、ここで出てきたかな?」「おや、聞き覚えのないリズムだな」と思われるところはいくつもあったが、それが補筆によるものなのか、指揮によるものなのか、よくわからない程度だった。が、何はともあれ、すべてに納得のゆく演奏。
もし不満を言うとすれば、あまりレクイエムらしくなかったことか。プレトークでも鈴木優人さん自身が言っていたが、生き生きとした生の賛歌のようにこの曲をとらえているようだった。だから重々しさもあまりなく、人の死を前にした厳粛な気持ちも、愛するものを失った喪失もさほど感じられなかった。音楽としては素晴らしかったが、確かに、厳かな宗教的な気持ちにふけることはできなかった。
アンコールは、アヴェ・ヴェヌム・コルプス(だと思う)。これもしっとりしたよい演奏。鈴木雅明はもちろん、先日の鈴木秀美と言い、今日の鈴木優人と言い、鈴木一家はとんでもない人たちだなあ!と改めて思った。
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