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オペラ映像「ジョコンダ」「カルメル派修道女の対話」

 このところ、急ぎの仕事がないのでのんびり過ごしている。一人暮らしにも慣れ、一時期の大混乱の状態からも脱することができ、ともあれ、音楽をじっくりと楽しむことができるようになった。これから先、かなりのコンサートに出かける予定。自宅でもCDを聴いたり、オペラ映像を見たりしている。

 数本オペラ映像を見たので、感想を記す。

 

ポンキエッリ 「ジョコンダ」1986年 ウィーン国立歌劇場

 1986年の伝説の上演といってよいだろう。以前、画質の良くないDVDで見たことがあったが、BDが発売されていると知って購入。やはり、素晴らしい上演。

 やはり何よりもエンツォ役のプラシド・ドミンゴが圧倒的。なんと輝かしくもりりしい声であることか。英雄的なイタリアのテノールはこの人に勝る人はしばらく出ていないと思う。ジョコンダのエヴァ・マルトンも、例によって棒立ちの演技だが、声の威力はすさまじい。ドミンゴとマルトンの二重唱はまさに圧巻。バルナバを歌うマッテオ・マヌグエッラも実に見事に悪役を演じている。憎々しいほどでむしろすがすがしい。ラウラのルドミラ・センチュクは知らない歌手だったが、しっかりした声で色気もある。アルヴィーゼはクルト・リドル。これもさすがの敵役。ドミンゴにまったく引けを取らない。ここまで圧倒的な声の持ち主たちがやりあうと、このオペラの魅力が高まる。

 若きアダム・フィッシャーの指揮もとてもいい。切れがよく、ドラマにあふれている。フィリッポ・サンユストの演出も現在からみるととても無難なものだが、ドラマを盛り立てていてまったく文句なし。

 

ポンキエッリ 「ジョコンダ」 2005年 バルセロナ、リセウ大劇場

 もう1本、ついでに「ジョコンダ」をみた。こちらは初めてみる。これもとても良い上演だと思うが、やはり1986年の伝説の上演とはだいぶ差がある。

 とはいえ、デボラ・ヴォイトのタイトル・ロールに関しては、エヴァ・マルトンに匹敵する歌唱。しっかりとした声が伸びている。演技については、ヴォイトの方がずっとそれらしい。ジョコンダの母親役のエヴァ・ポドレスは味があってとてもいい。

 大変申し訳ないが、エンツォ役のリチャード・マージソンが声はともかく、外見がどうにもこの役らしくない。マフィアの用心棒といった風貌。刑事ドラマによく出る六平直政さんをもっとごつくしたような外見なので、どうにもエンツォに見えない。声に関しても、ごつい体形のわりにはか細く感じる。ラウラ役のエリザベッタ・フィオリッロは迫力ある歌だが、ヴィブラートの強さが少し気になる。アルヴィーゼ役のカルロ・コロンバーラは不調なのか低音が出ていないし、声も伸びない。バルナバ役のカルロ・グェルフィはいかにも悪役でいい味を出している。

 この上演に関しては、歌唱以上に感嘆するのが、「時の踊り」のバレエだ。これは素晴らしい。女性が上半身裸になるオペラはこれまで何度か映像で見た記憶があるが、いずれも必然性を感じず、ただセンセーショナルを求めただけに思えたが、今回は、それがあまりに自然であまりに美しく、ほれぼれする。男性ダンサーも見事。振付もおもしろい。わたしはオペラの中のバレエの場面になるといつもは退屈してしまうのだが、今回は目を見張った。この振り付けも演出のピエル・ルイージ・ピッツィの功績なのだろうか。

 指揮はダニエレ・カッレガーリ。とてもいい指揮だと思う。ドラマティックでぐいぐいと音楽を推進していく。いやあ、とてもいいオペラだなあと改めて思う。

 

プーランク 「カルメル派修道女の対話」201312月 シャンゼリゼ劇場

 このソフトが販売されていることを知らなかった。初めてみて、びっくり。素晴らしい上演だと思う。

 修道女たちが素晴らしい。フランスの有名女性歌手が顔をそろえている。ブランシュ役のパトリシア・プティボンは、まさにこの役にピッタリ。清純な声で健気に歌う。心の迷い、死を前にしての恐怖と信仰の間で揺れ動く様を見事に歌ってくれる。メール・マリー役のソフィー・コッホ、リドワーヌ夫人役のヴェロニク・ジャンス、コンスタンス役のサンドリーヌ・ピオーは、いずれも美しい清純な声でそれぞれ個性のある修道女を歌う。しかも、さすがにフランス語の発音が美しい。これ以上は考えられないほどの充実ぶり。フランス革命の中、必死に信仰を守り断頭台に消えてゆく修道女たちを、悲劇性を強調するのでなく、淡々と描く。そうであるがゆえにいっそう悲劇的な運命が胸に迫る。

 フィルハーモニア管弦楽団を指揮するのはジェレミー・ロレール。この指揮者の演奏を初めて聴いたが、素晴らしい。緻密でしなやかでしかも淡々とドラマが迫ってくる。演出はオリヴィエ・ピィ。演出も、また演奏と同じように、悲劇性を大袈裟に語るのでなく、静かに淡々と描く。一人一人の苦悩が伝わってくる。

 それにしても、プーランクの音楽そのものの素晴らしさを改めて感じる。音楽が透明で高貴で信仰にあふれている。すごい作曲家だ!

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