デセイ&カサールデュオリサイタル デセイは今でもやはり凄かった
2022年11月9日、東京オペラシティ・コンサートホールでナタリー・デセイ&フィリップ・カサールのデュオ・リサイタルを聴いた。数年前、この二人の演奏を聴いて大いに感動し、驚嘆した記憶がある。今回もまたあまりの素晴らしさに心が震えた。
とはいえ、やはり全盛期の声でないことは認めざるを得ないと思う。まるで風邪をひいているかのように、時々声がかすれる。いつだったか、METライブビューイングの「椿姫」で、ヴィオレッタを歌うデセイが風邪をひいていて散々なことがあったが、それと同じようなかすれ声が出る。もしかしたら、今回も風邪をひいているのかもしれないが、むしろ、かなり持続的に不調なのだろうと思う。引退説を聴いたことがあるが、このせいなのだろうと思った。
しかし、かすれるのはある特定の声域だけのようだ。それ以外では、驚くような美しい透明な声であったり、強靭な強い声であったり、魂が震えるような美しい弱音であったりする。それらの声を使い分け、ニュアンス豊かに音楽を進めていく。その表現力にも感嘆するしかない。
前半はモーツァルトのオペラやコンサート・アリア。スザンナのアリアやバルバリーナのアリアもよかったが、圧倒的だったのは伯爵夫人の二つのアリア。とりわけ「美しい思い出よ、どこに」は、しみじみと伯爵夫人の嘆きを歌う。美声であるうえに、きわめて知的に表現する。
前半最後の「魔笛」のパミーナのアリアも絶品だった。
後半はフランスもの。ショーソンの「終わりなき歌」は、あまりに美しい。ショーソンのロマンティックな夢幻の世界を作り出す。プーランクの「モンテカルロの女」は、まるでモノオペラ「人間の声」を短くしたような歌曲。原作の詩も同じジャン・コクトーで、人生に絶望した女がモンテカルロのカジノで過ごし、最後に身投げするまでを、ユーモア交じりに軽妙に歌う。ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」の「私の長い髪が」の短いソロもよかったし、その後の、ピアノソロによるマスネの「エレジー」もよかった。カサールは、クリアな音で、実にしなやかに音楽を作る。重くなりすぎず、清潔で高貴で、デセイの歌にピッタリだと思う。その後、マスネの「ル・シッド」のシメーヌのアリアの後、最後の歌、グノーの「ファウスト」から「なんと美しいこの姿(宝石の歌)」。これはまさに絶品。ダイナミックで、声の美しさを存分に発揮でき、ホール全体を沸かせる。素晴らしかった。
アンコール2曲。聴いたことのある曲なのだが、なんだっけ。これも素晴らしかった。
デセイの録音や録画はかなり持っているが、この際、すべてを見たくなった!
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