ムローヴァのガット弦によるベートーヴェンに感動した
2022年11月22日、神奈川県立音楽堂で、ヴィックトリア・ムローヴァ ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。フォルテピアノとピアノの演奏はアラスデア・ビートソン。曲に合わせて、古楽器と現代楽器を持ち替えての演奏。
曲目は、前半にガット弦によるガダニーニとフォルテピアノによって、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第4番と第7番。後半にストラディヴァリウス「ジュールズ・フォーク」とピアノによる演奏で、武満徹の「妖精の距離」、アルヴォ・ペルト「フラトレス」、シューベルトのヴァイオリンとピアノのためのロンド ロ短調 D895。
前半のほうがおもしろかった。とりわけ、第7番のソナタに強く惹かれた。「クロイツェル」に匹敵する名曲だとつくづく思った。ムローヴァがガット弦でこの曲を弾くと、宿命的な情熱が内にこもる。外に奔出するというのでなく、ストイックにして抑制的になって宿命を地制で抑えてぐっと耐えているといった雰囲気になる、それが内側から聞こえてくる。しかし、昔のムローヴァのような、修道女めいた謹厳な音ではなく、もっとしなやかで美しい。
後半の曲目は、実は私にはなじみのないものばかりだった。シューベルトの曲は、知っている曲のつもりでいたのだったが、聞こえてきたのは知らない曲。私は実はシューベルトの曲が苦手だ。とりわけ室内楽作品に、「とりとめがない」という印象を抱いてしまう。ムローヴァがしっかりと形を作ろうとしているのはよくわかったが、やはりとりとめがないと私は感じた。
アンコールはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」の第2楽章。これは素晴らしかった。ビートソンがささやくようにピアノを鳴らし、親密で美しい時空間が出現した。繊細にして高貴。ベートーヴェンのリリシズム!
ムローヴァは大好きなヴァイオリニストなのだが、このところしばらくあまり良い来日公演に出会わなかった。久しぶりにムローヴァの音楽を堪能した。
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