内田&パドモアの「冬の旅」 良い演奏だったが、ヴィブラートに違和感を覚えた
2022年11月19日、東京オペラシティ・コンサートホールで内田光子&マーク・パドモアによるシューベルト「冬の旅」のリサイタルを聴いた。とても良い演奏だった。驚異的なほど完成された演奏といってもよいと思う。ただ、私はどうしても違和感を拭い去れなかった。
ともあれ、内田光子のピアノがとてもいい。私はなぜかピアノにはあまり感動しない人間なのだが、これほどまでに深みがあり、歌に寄り添い、歌を支え、荒涼としつつも人間味あふれるこの「冬の旅」の世界を作り出すピアノの音には深く感動してしまう。強いところもそんなに強く弾いているようには見えないのに、心の奥に迫ってくる音が鳴る。
パドモアの歌も完璧に考えつくされているといっていいだろう。やわらかい美声で、細部に至るまで完全にコントロールされ、音楽に寄り添いながら歌を紡いでいく。音程も完璧。残念ながらドイツ語は分からないのだが、きっと言葉の意味をしっかりと歌っているのだろう。その意味では本当に素晴らしいと思った。
私が違和感を抱いたのは、ただ一点、独特のヴィブラートだ。パドモアの演奏をCDで聴いたことはあったと思うのだが、こんなヴィブラートをかける人だっただろうか? むしろ、ヴィブラートの少ない歌手だと思っていたのだったが・・・。もちろん、パドモアは不用意にヴィブラートをかけているわけではない。「菩提樹」あたりまでかなり強いヴィブラートだったが、その後、抑制気味になり、また「勇気」のころから、強まった。意識して、そのようにしているのだろう。そこにパドモアの解釈があるのだろう。だが、私にはこのヴィブラートはとても不自然に聞こえる。シューベルトの生の声が薄れる気がする。憧れと絶望の中であがく青年の心の声が聞こえてこない。
「ああ、このヴィブラートさえなければ、きっと心の底から感動するだろうに・・・」と思いながらずっと聴き続けていた。
スタンディング・オーベーションが起こり、多くの人が立ち上がったが、今日は私は立ち上がらなかった。
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