日生劇場「天国と地獄」 躁状態になってこれでいいのだ!と思った
2022年11月23日、日生劇場でオッフェンバックのオペレッタ『天国と地獄』をみた。2019年の公演の再演。私は前回は時間が合わなくて見なかったので、今回が初めて。指揮は原田慶太楼、演出は鵜山仁。管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団。
日本語の訳詞による上演だ。オペレッタの場合、このようなやり方もよいと思う。原作の台本からかなり離れ、現代向きのギャグをたくさん盛り込んでいる。原作は何しろオリンポスの神々の物語で、しかも時代風刺が含まれているので、そのまま今の日本で上演しても通じないし、おもしろくならない。セリフも若者向けに砕けさせ、笑いを誘うように様々な工夫をしている。
ただこうすると、歌手たちにかなりの演技力が必要とされる。セリフを工夫すればするほど、歌手の演技力が伴わないと、学芸会っぽくなってしまう。同時に、どうしても下品な感じになってしまう。今回の上演は、学芸会っぽくなる一歩手前でかろうじて踏みこたえたといったところか。ただ、やはり少々下品な感じにはなっていると思った。このような男性の浮気話を扱って上品にするには、かなりの演技力が必要だと改めて思った。
そんな中、声と演技力ともにそろっていたのは、ジュピターの又吉秀樹だった。さすがというべきか。世論の竹本節子もなかなかの役者ぶり。そのほかの歌手陣は、なかなかの健闘だとはいえるが、やはり演技の面で少々物足りなく思った。とはいえ、マーキュリーの中島康晴も見事な声、プルートの渡邉公威、オルフェの市川浩平、バッカスの鹿野由之、マルスの菅谷公博もしっかりした声でとても楽しめた。女性陣では、ユリディスの湯浅桃子が美しい声と色気のある演技が見事だった。ヴィーナスの鷲尾麻衣、ダイアナの上田純子、キューピッドの吉田桃子もとてもよかった。
東フィルはところどころでなんだか少し頼りない音を出していたが、全体的には良くまとまっていた。原田の指揮は、勢いがあって溌剌としている。オペレッタをぐいぐいと推進していく力を持つ指揮者だと思った。
それにしても、例のカンカン踊りの音楽を聴くと、何はともあれ明るい気持ちになり、躁状態になって、「これでいいのだ!」と言いたくなる。少々の不満は何のその。やはりこのオペレッタは実に楽しい。間違いなく歴史に残る大傑作だと思う。
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