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郷古&ガヤルドのクロイツェル まっすぐな演奏

 20221210日、トッパンホールで、郷古廉(ヴァイオリン)のリサイタルを聴いた。ピアノはホセ・ガヤルド。曲目は、前半にシマノフスキの「神話」とプーランクのヴァイオリン・ソナタ、シューマンの3つのロマンス、後半にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」。とても良い演奏だった。

「神話」は初めて聴く曲。ショーソンの「詩曲」をドイツ後期ロマン派風にした曲とでもいうか。官能的でとりとめがなく夢想的。それを郷古は音程のよい音で、情緒に流されず、しっかりと知的に演奏する。ヴィブラートをあまり強くかけず、まっすぐに表現する。明確な音による夢幻の世界。ピアノもまたしなやかに、そして知的に支える。音の粒立ちがとても美しい。とてもおもしろいと思った。

 プーランクは強い音による激しい表現。冒頭のメロディはとても衝撃的だった。プーランク特有の洒脱というか、ちょっと斜に構えた雰囲気はあまり強調されず、まさに真正面からの音楽。きっと郷古さんは気まじめな人なのだろう。ピアノのガヤルドはしなやかで鮮明なタッチでぴったりとヴァイオリンに寄り添って、陰影を示していた。それはそれでとてもいいのだが、私としては、もう少し、洒落ていたり、悪戯っぽかったり、気まじめだったりといった多様な面を見せるほうが、深みが出てプーランクらしい曲になったと思う。

 後半に入っても、「三つのロマンス」は、前半の「神話」と同じように、ロマンティックな曲を知的でごまかしのない音で演奏された。不思議なロマン性が生まれる。

「クロイツェル」は、激しさを強調した演奏と言えるだろう。ヴァイオリンは暴力的といえるほどの激しい音。強いアクセントをつけて、情熱的に弾く。しかし、音程はしっかりしており、構成も崩れないので、むしろ直球によってぐいぐい攻めていく雰囲気。ピアノの方はヴァイオリンほど直球ではないが、こちらもまじめなアプローチでしっかりとサポートする。ピアノも鮮明な音でしっかりと激しい感情を描いているが、ヴァイオリンが暴力的になりすぎるところをうまくセーブしている面もありそう。

 ただ、第2楽章の変奏形式の部分で、それぞれの変奏のニュアンスのつけ方がちょっと一本調子の気がした。もう少し変化をつけて面白くしてくれる方が私としてはうれしかった。だが、きっと郷古というヴァイオリニストは、そのようなことを考えずに、直球勝負をしたいと思う人なのだろう。それはそれで見事なことだ。第4楽章の高揚は素晴らしかった。

 アンコールはシベリウスの「5つの小品」の「ワルツ」とのこと。これもまた真正面からごまかしなしの演奏。情緒に逃げずに、あくまでも知的にロマンティックな雰囲気を作り出す。

 郷古は女性に人気なのだろう。客の8割以上が女性だったと思う。このような人気、実力のあるヴァイオリニストが活躍するのはうれしいことだ。

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