クァトロ・ピアチェーリ 平和で穏やかなドヴォルザーク
2022年12月18日、市川市文化会館小ホールで、クァトロ・ピアチェーリのコンサートを聴いた。第一ヴァイオリン大谷康子、第二ヴァイオリン木野雅之、ヴィオラ百武由紀、チェロ苅田雅治にピアノの佐藤卓史をゲストとして加わった、「明るい未来を願って」という副題のついたコンサートだ。その昔、たぶん35年以上前、市川の文化会館でアルゲリチとクレメルのリサイタル(確か、シューマンのヴァイオリンソナタが演奏された)を聴いた記憶があるのだが、それはこのホールだっただろうか。まったく覚えがなかった。
前半はナチス・ドイツによって強制収容所で殺害されたチェコの作曲家シュルホフの弦楽四重奏曲第1番の第2楽章とショスタコーヴィチの「5つの小品」、そして、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲 第8番。後半にウクライナの作曲家スコリックの「メロディ」とドヴォルザークのピアノ五重奏曲 第2番。ウクライナの戦争で苦しむ人々に心を寄せ、平和を願うコンサート。メッセージの伝わるコンサートだった。
シュルホフの曲は、強制収容所で殺害されたと知って聴いたせいか、鋭くて悲劇的な曲だった。とても魅力的。全曲を聴いてみたいと思った。ショスタコーヴィチの小品は佐藤、大谷、木野の3人による演奏。2台のヴァイオリンのからみがとてもおもしろかった。
ただ、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番については、私はちょっと「緩い」感じがした。アンサンブルはきれいだし、よくまとまっていると思うのだが、ショスタコーヴィチの激しい感情が伝わってこない。戦争への怒り、ファシズムへの怒り、専制的なものへの憤怒が伝わってこない。特に第1楽章の緊密度が不足しているように思った。だから第2楽章の爆発が弱いと思った。
後半の、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲はとても美しかった。弦楽器もドヴォルザーク特有の親しみやすくしみじみとしたメロディを美しく奏で、ピアノの佐藤もとても優美でしなやかな音でそれを支える。まさに平和を祈るような音楽。ただ私としては、第3楽章はもっと躍動がほしいと思ったし、フレーズとフレーズの曲想の変化をもっと鮮明にする方がいいと思ったが、きっとこの演奏家たちは、柔和で平和な音楽にしたかったのだろう。それはそれで成功していると思った。
私もウクライナの平和を祈りたい。多くの人が苦しまないで済むように祈りたい。専制主義が世界を覆うような状況にならないことを祈りたい。
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