オペラ映像「ギリシャ受難劇」「エルナーニ」「椿姫」
70歳を過ぎてからの久しぶりの独身生活はなかなか大変。寒いので外食に行く気にもならず、冷凍食品を中心に、ちょっとだけ自分なりに野菜を炒めたり魚の干物を焼いたりして、しのいでいる。今日はステーキを焼いた。ともあれ、おいしくできた。
オペラ映像を数本見たので簡単な感想を記す。
マルティヌー 「ギリシャ受難劇」(英語歌唱・テレビ放送用 1981年6月1-6日ブルノ・スタディオン・ホール)
マルティヌーにオペラがあったとは知らなかったし、映像になっているとも知らなかった。ネットであれこれみているうちに発見したのだった。90分ほどの短いオペラ。この映像では英語で歌われている。どうやら歌手と俳優は別の人らしい。歌手で知っているのは、司祭グリゴリウスを歌ったジョン・トムリンソン。指揮はサー・チャールズ・マッケラス。ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団。
ギリシャのある村で受難劇が予定され、司祭の指示でイエスやマグダラのマリアやユダの役が決められる。と、そこにトルコから追われてきたキリスト教徒の集団が助けを求めてやってくる。司祭は救うことを拒否するが、受難劇でイエスの役を割り当てられたマノリオスやマグダラのマリア役の娼婦カテリーナは助けようとする。だが、助けようとした人たちは排除され、受難劇の配役通り、マノリオスは、ユダヤ役の男に刺されて殺される。
原作はニコス・カザンツァキス。映画にもなった「その男、ゾルバ」(とてもいい映画だった!)の作者。マルティヌー自身が台本を書いたという。緊迫感にあふれていて、なかなかおもしろい。ただ、私がマルティヌーを理解しないせいもあるかもしれないが、音楽については、少し魅力に乏しい気がする。マッケラスの指揮も歌手陣もとても充実しているのだが、心を動かすような音の響きもメロディもなかった。なんとなく終わってしまった感じ。
ヴェルディ 「エルナーニ」 1983年12月 メトロポリタン歌劇場
エルナーニをルチアーノ・パヴァロッティが歌った伝説的映像。ドン・カルロをシェリル・ミルンズ、デ・シルヴァをルッジェーロ・ライモンディ。もうこれだけで、ものすごいとしか言いようがない。しかも、エルヴィラを歌うのはレオーナ・ミッチェル。
歌の競演という言葉をよく聞くが、この上演がまさにそれ。やはりパヴァロッティが圧倒的。よくぞまあこれほどの声が出るものだと、素直に驚嘆してしまう。パヴァロッティに刺激されるのだろう、ほかの歌手たちも力いっぱい歌って、声の威力を発揮する。指揮はジェイムズ・レヴァイン。素人の私にはわからないが、きっと歌手が歌いやすいようにうまくサポートしているのだろう。
これほどの歌が続くと、このオペラの荒唐無稽さもさほど気にならなくなる。逆に言うと、イタリア・オペラというのは本来このようなものなので、この「エルナーニ」や「イル・トロヴァトーレ」のような支離滅裂な筋立てのオペラが何の違和感もなく上演されてきているのだろう。演出はピエール・ルイジ・サマリターニ。ストーリーがストーリーなので、私としては演出について特に気にならない。
ヴェルディ 「椿姫」 2006年 ロサンジェルス歌劇場
安売りしていたので、古いDVDを購入してみた。素晴らしい上演だといっていいだろう。舞台装置も豪華。マルタ・ドミンゴの演出はまるでハリウッド映画のよう。ルネ・フレミングのヴィオレッタは、美しくてはかなくて、とてもいい。素晴らしい声と演技力。
ただ実は、そうは言いながら、なぜかあまり感動できなかった。まるで1950年代、60年代のハリウッド映画をみている感じがして、切羽詰まったリアリティを感じなかった。大人の娯楽映画という感じ。フレミングの表情に余裕があるせいもあるかもしれない。アルフレードを歌うローランド・ヴィラゾンの癖のある歌いっぷりがあまりに芝居じみているせいかもしれない。あるいは、ジェルモンの歌うレナート・ブルゾンの、老いを隠せない声のコントロール不足のせいかもしれない。それ以上に、ジェイムズ・コンロンの指揮がピリッとしないせいかもしれない。あるいは、ロスアンジェルスの観客が、アリアごとに音楽が終わる前から大喝采をして、いかにもアメリカ的に盛り上がるせいかもしれない。なんだかよくわからないのだが、だんだんとオペラをリアルに感じることができなくなってしまった。
いや、繰り返すが、全体的には見事なレベルの上演だと思う。とりわけフレミングは素晴らしい。が、私はちょっと乗れなかった。
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