カルテット・アマービレ 最高の大フーガだった
2023年1月31日、王子ホールでカルテット・アマービレによるベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏3を聴いた。曲目は、第2番、第9番(ラズモフスキー第3番)、第13番「大フーガ付き」。
素晴らしい演奏だった。完璧なアンサンブル。シャープであるが、シャープ過ぎない音。そして、かなり大胆に自分たちの解釈を貫く。第2番の第3楽章、第9番の終楽章など、ちょっと極端なほどにメリハリをつけ、あおっていく。だが、アンサンブルが美しく、しかもそのあおりに説得力があるので、まったく嫌味ではない。きっとベートーヴェンはこのような曲を作りたかったのだろうと私も確信する気になった。第9番の終楽章は本当に素晴らしかった。
第13番はそれにもまして見事だった。それぞれの楽章が有機的につながっており、物語を聞くかのよう。第1楽章では、天上に向かおうとする意志とそれを阻むものとの葛藤が行われ、あと少しで天上に行こうとしながら阻まれる。第2・3・4楽章で様々な魂を遍歴して天井に向かう魂と、それができずにいる魂、苦しむ魂、喜びの魂が行きつ戻りつする。第5楽章「カヴァティーナ」で、第九交響曲の第3楽章のような穏やかな境地に達する。そして、大フーガで初めに戻って巨大な戦いが起こった後、最終的に、笑いにあふれた純粋な喜びの境地に達する。四人が完璧に気持ちを一つにして、そのような物語を語っているかのようだった。とりわけ、大フーガは圧巻だった。心の底から感動した。私がこれまで実演で聴いたなかで最高の大フーガだった。
アンコールは、ベートーヴェンの作品130の第6楽章。つまり、「大フーガ」の代わりに第13番の終楽章に据えられたもの。大フーガのような重い曲ではないが、完璧にコントロールされ、少し軽妙なベートーヴェンの境地を描く名演だった。
これまで実は二度ほど、カルテット・アマービレの演奏を聞き逃している。一度は、開演直前になって、施設に入っている母の病状悪化の知らせが入って引き返した(母はその後、回復した)。あと一度は妻の病状が思わしくなく、数日前に諦めた。今回も何かありはしないかとひやひやしていたが、何事もなく、最高のベートーヴェンを聴くことができた。とても満足。
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