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新国立「タンホイザー」 ちょっと上品すぎるが、素晴らしい!

 2023128日、新国立劇場で「タンホイザー」をみた。指揮はアレホ・ペレス、演出はハンス=ペーター・レーマン。2007年から続いているプロダクション。ドレスデン版とパリ版の折衷版。素晴らしい上演だった。

 歌手陣は最高度に充実していた。タンホイザーのステファン・グールドは相変わらずの凄まじさ。近年、バイロイトには出演していないようだが、私がバイロイトで聴いたころに比べてまったく衰えを感じない。場内にビンビンと響く強い声で、しかもコントロールも完璧。タンホイザーにしてはあまりに堂々たる体格だが、それはやむを得ないだろう。

 エリーザベトのサビーナ・ツヴィラクも清純な声が素晴らしかった。この歌手の名前を初めて知ったが、音程はいいし、声は美しいし、遠目であるが、容姿的にもとても美しく見える。この役にふさわしい声で、しかも第三幕の弱音を強調した歌いっぷりはとりわけ感動的だった。ヴェーヌスのエグレ・シドラウスカイテもドスの効いた妖艶な声で、この役にピッタリ。ヴォルフラムのデイヴィッド・スタウトも安定した歌いっぷり。ただ、前半少し、声の美しさの上で疑問を覚えたが、後半、持ち直した感じがした。やはり外国人勢四人は圧倒的だった。

 牧童の前川依子、領主ヘルマンの妻屋秀和、ヴァルターの鈴木准、ビーテロルフの青山貴、ハインリヒの今尾滋、ラインマルの後藤春馬もしっかりと歌って、まったくスキのない配役だった。三澤洋史の合唱指揮による新国立劇場合唱団も、力感があり、しなやかさがあって実に見事。

 アレホ・ペレスの指揮もとても良かった。初日だったので、もしかしたらオーケストラにほころびが出るのではないかと恐れていたが、そんなことはなかった。しなやかで官能的でとろけるような演奏だった。細かいところまで神経が行き届いており、ドラマが盛り上がる。第三幕では胸をかきむしられるような葛藤を描き出し、内面的に盛り上げていった。私の耳にはっきりわかるようなミスもなく、深みのある美しい音を聴かせてくれた。ただあえて不満を言うなら、ちょっと上品でおとなしすぎるワーグナーだった。もっともっとあおって官能と信仰のせめぎあいを濃厚に描いてもよいのではないかと思ったが、そのあたりはあっさりしていた。そのため、しみじみと素晴らしいと思いながら、ワーグナー的興奮はあまり感じなかった。これのこの指揮者の持ち味なのだろう。もちろんこれはこれで素晴らしい。

 演出については、今となってはきわめて穏当。バレエもとても魅力的だった。新国立劇場のこれまでの歴史の中でもかなり上位に入る名演だと思った。

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