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アルトシュテットのバッハ無伴奏チェロ組曲 とても良かったが、飽きてしまった!

 2023219日、紀尾井ホールでニコラ・アルトシュテットの無伴奏チェロ・リサイタルを聴いた。曲目はバッハの無伴奏チェロ組曲第1番から第5番。つまり、第6番を除くバッハの無伴奏組曲の全曲。

 まずは、あまりの技巧に驚いた。見ていて指がもつれそうな曲をやすやすと弾きこなす。これまで聴いたほかのチェリストだともっとゆっくりと演奏するところも、かなりのハイ・テンポでばりばりと弾きまくる。切れ味鋭く、鮮烈な音。しかも、音色を使い分け、それぞれの舞曲に合わせて見事に音楽を作っていく。時に音量を抑え、穏やかに、ある時には激しく。しかも、6つの舞曲を別々のものととらえるのではなく、一つの統一として演奏する。それぞれの舞曲を切って演奏するのでなく、まるでひとつながりのように、ほとんど間を置かずに演奏するのもそのような意図の表れだろう。一つの曲にも人生のドラマがあるのがよくわかる。

 しかも、第1番から第5番までを、これまた一つのつながりとしてとらえているようだ。第1番はまさに序奏、第2番、第3番と思いが深まって、第4番、第5番と、スパイラル式に同じような展開を取りながら、深く沈潜していく。

 ところが、ほれぼれしながら聴きながらも、実を言うとちょっと退屈した。確かにニュアンスをしっかりと弾いている。知性も感じるし、ともかく音は完璧にコントロールされている。ところが、なんだかすべてが同じように聞こえる。

 一時期、両親が都内のサービス付き高齢者向け住宅で暮らしていた。そこのレストランは味に定評があった。居住者だけでなく、面会客もそこで食べることができたので、私も何度か味わった。時に感動するほどおいしかった。和食、中華、洋食の三色から選ぶことができ、どれも高級レストラン並みの味だった。両親も初めのうちは喜んでいた。ところが、一月もすると、両親は、たまに検査などで出かけた病院で、さほどおいしいとは思えないカレーライスを食べたがるようになった。サービス付き高齢者向け住宅のレストランの料理は、どんなにおいしくて、どんなに細かいところを工夫していても、やはり基本の味はみんな同じなので飽きてしまう、父はそのように言っていた(その後、父は亡くなった)。

 アルトシュテットのチェロを聴きながら、それを思い出した。どれも見事。工夫をしている。しかし、すべてがハイスピードで進んでゆき、基本的には同じように味付けされた舞曲が30も続くと、どうしても飽きてくる。まだ、アルトシュテットは若すぎると思った。もっと根本のところで30の舞曲の作り出す世界を描き分けるだけの年齢と経験を積む必要があるのだろうと思った。

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