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新国立劇場「ホフマン物語」 名歌手たちが十分に力を発揮できていないのでは?

 2023317日、新国立劇場で「ホフマン物語」をみた。2003年から始まったフィリップ・アルロー演出のプロダクション。私もこの演出でみるのは、今回が3回目だと思う。

 ただ残念ながら、期待ほどの上演ではなかった。

 まず、マルコ・レトーニャの指揮する東京交響楽団がぱっとしない。たぶん、オーケストラの性能の問題ではなく、指揮者の力量だと思う。もしかしたら、このオペラを得意にしていないのではないかと思った。ドラマが盛り上がらないし、音がびしっと合わない。ずっとちぐはぐな感じがした。結局、私は最後まで音楽に魅力を感じないままだった。

 歌手陣にも惹かれる人は多くなかった。今回、私が最も納得できたのは、ジュリエッタの大隅智佳子だった。素晴らしい歌手だということはよく知っているが、しっかりと美しい声が出て、勝ち気で妖艶なジュリエッタを見事に歌っていた。ホフマンのレオナルド・カパルボもなかなかよかった。もちろん、映像でみてきたドミンゴやアラーニャやニール・シコフなどと比べると、自在さに欠けるし、声のコントロールも不十分な気がしたが、このくらい歌ってくれれば十分。

 だが、ニクラウス/ミューズの小林由佳、オランピアの安井陽子、アントニアの木下美穂子はいずれも日本を代表する歌手であり、私も何度となく感動して聴いたのだったが、なぜか今日は声が伸び切らず、音程が不安定になるのを感じた。これらの名歌手たちが実力を発揮できない何らかの要因があったのだろうか。もしかしたら、日本を代表する歌手たちが集まったために、つい肩に力が入りすぎたのか。それともフランス語が壁なのか。

 私が最も強い違和感を覚えたのは、リンドルフらの役を歌うエギルス・シリンスだった。ワーグナーを歌うと実に説得力がある歌手なのだが、これらの役は歌いこなしていない。いや、そもそもまったくフランス語になっていない。フランス語ではありえない音がしばしば聞こえ、そのためにフランス的な雰囲気がまったくない。そうなると、このオペラが成り立たなくなってしまう。誰かフランス語指導をしなかったのだろうか。

 アルロー演出では、最後、ホフマンがピストル自殺する。アルローの解釈なのか、それとも、このオペラのたくさんあるヴァージョンの一つに、このような場面があるのだろうか。

 実は、私はどうも「ホフマン物語」がよくわからずにいる。オッフェンバックは大好きなのだが、私が好きなのは他愛のないオペレッタであって、この深刻さを含む「ホフマン物語」ではない。ヴァージョンがたくさんあるせいもあって、私はこのオペラがどのような性格を持っているのか、そもそもこのオペラが言おうとしているのは何なのかをとらえきれていない。一つ一つのセリフの意味もわからないものがたくさんある。わかりたいと思って新しい上演を見ると、ますますわからなくなる。今回もますますわからなくなった。

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