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東響の五重奏曲とセレナードを堪能した

 202334日、ミューザ川崎シンフォニーホールで、モーツァルト・マチネ第52回を聴いた。曲目は、東京交響楽団のメンバー(クラリネット近藤千花子。第一ヴァイオリン小林壱成、第二ヴァイオリン水谷晃、ヴィオラ西村眞紀、チェロ伊藤文嗣)によるモーツァルトのクラリネット五重奏曲と、小林壱成の小林壱成の弾き振りによってチャイコフスキーの弦楽セレナード ハ長調。どちらも素晴らしかった。

 クラリネット五重奏曲は、やや遅めのテンポでかなりくっきりと音楽を刻んでいく印象を受けた。クラリネットはふくよかな雰囲気の音のなかにモーツァルトらしい活気と悲しみが含まれて、とても美しかった。知的な感じの小林の第一ヴァイオリンと楽しげな水谷の第二ヴァイオリンのバランスもとてもいい。第2楽章のクラリネットと第一ヴァイオリンの繊細な掛け合いにしびれた。終楽章の変奏曲ごとの雰囲気の変わり方も素晴らしかった。

 改めて、なんという名曲だろう!と思った。あまりに美しいメロディに心を洗われ、その中に混じる悲しみやかすかな絶望に心から共感する。モーツァルトは交響曲も協奏曲もオペラもいいが、やっぱり室内楽がいちばんだな!と思う。このクラリネット五重奏曲と、ト短調とハ長調の2つの弦楽五重奏曲はモーツァルトの最高傑作だと思う。それを十分に感じさせてくれる演奏だった。

 チャイコフスキーの弦楽セレナードもよかった。東響のアンサンブルの美しさに改めて驚いた。チャイコフスキーらしい悲哀にあふれたメロディが、深い音でぐいぐいと心に迫ってくる。近年、びしっと音程のあったスマートな音でスピーディに演奏する団体が多いが、東響は、それとは少し違う。音程はいいと思うし、勢いもあるが、もっと潤いがあり、深みのある音が出てくる。まさに人間の律動に訴えかける音だと思う。しかも、思い切りよく、音が積み重なるので、ぐいぐいと引き込まれる。弾き振りの小林の功績なのか、全体の組み立てもドラマティックでありながら、実にスムーズ。心の奥の方の感受性を見事にくすぐる。チャイコフスキーの叙情が炸裂した。弦楽アンサンブルを堪能した。

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