オペラ映像「パリの生活」「友人フリッツ」「夢遊病の女」
2023年も3月の末日になった。明日から4月になって、新しい年度が始まる。
自宅で音楽を聴いたり、オペラ映像を見たりする時間が取れない。ほんの少し体調がよくない(大病ではない!)せいもあるし、事情があって、平日のほとんど毎日、保育園に、あと少しで3歳になる孫を迎えに行っているせいもある。孫と過ごすのはとても楽しく、生き返る気がするのだが、これがなかなか大変。自分の子どもたちが小さかったころ、猛烈に忙しくてあまり面倒をみられなかった(私は、20パーセントくらい参加したつもりだったのだが、亡妻は、「あなたの育児への参加はまったくゼロだった」と強く主張していた)ので、その分、孫の面倒を見ることでいくらか評価を取り返そうと思っている。
そんな中、時間を見つけて、少しだけオペラ映像をみた。簡単な感想を記す。
オッフェンバック オペレッタ「パリの生活」(パラツェット・ブリュ・ザーネによるオリジナル復刻版) 2021年12月23,27日 シャンゼリゼ劇場
パラツェット・ブリュ・ザーネ(フランス・ロマン派音楽センター)によるオリジナル復刻版上演の収録だという。そのせいかもしれない。とても良い演奏で、歌手たちの歌も演技も見事なのだが、21世紀の日本人としては、あまり面白さを感じなかった。笑いを取ろうとしての大袈裟な演技、少々下品な化粧や仕草。上流の人々や召使たちのばか騒ぎ。しかも、役の年齢よりもずっと年上の主人公たち(もちろん、オペラなんてものは、50代、60代の歌手が10代、20代の役を演じるのが当たり前のものではあるが、オペレッタはもう少し役柄の年齢に近づけてほしい)。これがホンモノのオペレッタなのかもしれないが、ちょっとディープすぎるというか。
ただ、やはりオッフェンバックの音楽は本当におもしろい。これほどあっけらかんとして楽しい音楽はほかにない。人生を知り、才能にあふれた作曲家の肩の力を抜いたお遊びの世界。そこに辛辣な社会観察が入り、人生の知恵が含まれる。「パリの生活」は傑作だと思う。
ギャルドゥフのロドルフ・ブリアン、ボビネのマルク・モイヨン、ゴンドルマルク男爵のフランク・ルゲリネル、ゴンドルマルク男爵夫人のサンドリーヌ・ブエンディア、メテラのオード・エクストレーモ、いずれも文句なし。
ロマン・デュマの指揮も溌剌としていて切れがある。とてもいい指揮者だと思う。
まあ要するに、オッフェンバックのオペレッタはとてもおもしろいが、実際に上演すると、やはり退屈なところがたくさん出てくる…という、これまで何度も感じたことを改めて感じたというわけだ。しかし、「地獄のオルフェ(天国と地獄)」のほか、たくさんの傑作がある。何らかの工夫をしてどんどん上演されたら、どんなに楽しいだろう。
マスカーニ 「友人フリッツ」 2022年3月1,3日 フィレンツェ五月音楽祭歌劇場、ズービン・メータ・ホール
このオペラに初めて触れた。CDでも聴いたことがなかった。「カヴァレルア・ルスティカーナ」や「イリス」と同じように充実したオペラだと思うが、ドラマティックな展開ではないので、ヴェリスモ・オペラとしては少々物足りない。単に、独身主義者だった地主のフリッツが、田舎娘に恋して結ばれるというだけの話。シュトラウスの「インテルメッツォ」のように日常的な場面をオペラにしたいという意図があったのだろうか。
歌手陣はきわめて充実。フリッツを歌うチャールズ・カストロノヴォはまさにこの役にピッタリ。上品でしなやかで余裕のある歌と演技。スゼルのサロメ・ジチアもとてもいい。ただ、素朴な田舎娘という設定にしては、妖艶な雰囲気のある美人なので、役柄的には少し違和感がある。ベッペのテレーザ・イエルヴォリーノ、ダヴィッドのマッシモ・カヴァレッティも音程がよくて演技も見事。リッカルド・フリッツァの指揮、フィレンツェ五月祭管弦楽団。もちろん、悪くない。
ただ、ロゼッタ・クッキの演出については、どうも意図がわからない。舞台はアメリカに設定されているのだろうか? 台本ではアルザス地方にあるフリッツの屋敷であるはずの第一幕と第三幕の舞台は、どうやら近年(2、30年前くらい?)のアメリカっぽい雰囲気のパブ。そこの客たちのやり取りという設定になっている。そして、ジプシー娘のはずのピッピは男装し、フリッツの友人として登場。そういうヴァージョンがあるのだろうか。ダヴィッドは牧師ではなく、ふつうのネクタイ姿の紳士。地方色がなく、都会の片隅で行われた恋の顛末という話になっている。きっとこのオペラの魅力の一つが地方色だと思うのだが、それを完全に消している。
カーテンコールで歌手陣は胸にウクライナ国旗の色のリボンをつけている。イタリアの音楽祭でこのような意思表示をするのは、悪いことではないだろ。
ベッリーニ 「夢遊病の女」 2009年3月 メトロポリタン歌劇場
しばらく前に、ナタリー・デセイのCDとDVD合わせて52枚のボックスを購入。CDを少しずつ聴いているが、今回はDVDをみた。
他愛なく、しかも深みのないこの話をなぜベッリーニが作曲したのか、私にはどうにも納得ができないのだが、ともかく歌は美しい。しかも、この上演については、アミーナのナタリー・デセイとエルヴィーノのフアン・ディエゴ・フローレスに関しては、これ以上考えられないほどのすばらしさ。デセイの美声、テクニック、演技力、すべてに圧倒される。そして、フローレスの声の輝き、瞬発力のある美声にも驚く。さすがメトロポリタン劇場だけあって脇役に至るまで、容姿の面も含めてその役にピッタリで、まるで映画のようにリアルに話が進む。
ただ、メアリー・ジマーマンの演出は、舞台の作りはいかにも豪華だが、アミーナの清純さも強調されないし、夢遊病だとわかる場面の納得感もない。メリハリのない演出といえるだろう。指揮はエヴェリーノ・ピド。あまり知らない曲なので、指揮について批評的なことは言えないが、私としてはまったく不満はない。
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