ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽 陰りのないフォーレ、ブラームス
2023年3月18日、東京文化会館 小ホールで、東京・春・音楽祭 ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽を聴いた。
いよいよ2023年の東京・春・音楽祭が始まった。久しぶりにコロナ感染をそれほど気にすることなく存分に音楽を味わえる。
ヴァイオリンの樫本大進、ヴィオラのアミハイ・グロス、チェロのオラフ・マニンガー、ピアノのオハッド・ベン=アリによって三つのピアノ四重奏曲が演奏された。前半に、ベートーヴェンのピアノ四重奏曲変ホ長調、フォーレのピアノ四重奏曲 第2番、後半にブラームスのピアノ四重奏曲 第2番。
ベートーヴェンの作品は14歳の時に書かれた習作なので、テクニック的にもかなり単純。まだベートーヴェンらしくない。しかし、初々しい感性にあふれており、叙情的なメロディが次々と出てくる。演奏ももちろん見事。
フォーレについては、これはこれでよい演奏なのだが、フランス的な雰囲気がまったくないので、私としては少々不満を抱いた。それぞれの楽器の音が確信にあふれており、堂々たる構築性で迫ってくる。そうなると、フォーレ特有の弱さを含んだ抒情が消え去ってしまう。内向的でおずおずとした雰囲気がまったくない。私はフォーレの曲は、おずおずとした中から生まれてくる芯の強さが好きなのだが、どうもそうならない。
ブラームスも同じような演奏だった。陰りがあまりなく、それぞれの楽器がものすごいテクニックと美しい音でスケール大きく演奏する。見事な音。アンサンブルもまったくスキがない。それはそれで素晴らしいし、もちろん聴いていて感動する。だが、いやいや、やっぱりもっと内向性がほしいと思ってしまう。
今、WBCが大きな話題になっている。私も、同世代の人々同様、子供のころから野球好きなので、もちろん関心をもってテレビをみては、大谷、ヌートバー、ダルビッシュらに声援を送っている。WBCでも大スター選手たちが競い合って次々と大きな当たりを飛ばしたり、剛速球で三振を取ったりする。なんだか、演奏を聴いてそれを連想した。スター演奏家たちが競い合って自分の技を示す。そこには、犠打の専門家や敗戦処理投手はいない。みんなが自信たっぷりでみんなが輝いている。そんな人たちを見るのも気持ちがいいが、フォーレやブラームスの音楽の中には、普通にやっていては通用しないので心ならずもせこいことをしている人や、悲しい思いを抱きながらもなんとか奮起して生きているような人間の心も確かに存在していると思う。やはりフォーレやブラームスでは、そのような陰りを聴きたいと思った。
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