METライブビューイング「ローエングリン」 ただただ感動するばかりの音楽!
METライブビューイング「ローエングリン」(2023年3月18日上演)をみた。指揮はヤニック・ネゼ=セガン、演出はフランソワ・ジラール。
まず、ネゼ=セガンのあまりに雄弁な指揮に圧倒される。様々な楽器の音が強くうねって聞こえてくるが、しっかりと全体のコントロールができている。その音で「ローエングリン」の神秘的で英雄的で悪魔的で、時に官能的な世界を作り上げていく。聴く者としては、ただそのうねりに身をゆだね、感動に浸ることになる。私は2011年にザルツブルク音楽祭でこの指揮者の力量を初めて知ったのだったが、それから十数年、ものすごい指揮者になったものだと思った。ただ、オーケストラが強すぎるためもあって、合唱のセリフがほとんど聞き取れない(まあ、ワーグナーの場合、どの上演でもそんなものだが)のは気になった。
さすがMETというべきか、歌手陣も最高度に充実している。タイトル・ロールのピョートル・ベチャワ。近年のローエングリン歌いとしては、フォークトやカウフマンを上回るのではないかと思う美声とエネルギー。インタビューの中で「経歴30年」と語っていたのでびっくり。若く見えるし、私がこの歌手を知ったのはたかだか10年ほど前なので若い歌手だとばかり思っていたら、50代後半らしい。
もうひとり目立ったのは、やはりオルトルートのクリスティーン・ガーキー。まさに悪魔的な力を聴かせてくれた。エルザのタマラ・ウィルソンも清純な歌でこの役にふさわしい美声だが、ガーキーが相手では、こりゃたじたじだな!とは思った。
ハインリヒのギュンター・グロイスベックもさすがの歌唱。テルラムントのエフゲニー・ニキティン(プーチンとの関係はどうだったのだろう?)も見事。そして、伝令役の歌手(日本版のパンフやネットに歌手名の記載がない)もとても良かった。多くの上演のように軍人風に歌うのではなく、人間味あふれた歌い方。演出家または指揮者による指示なのかもしれないが、とても興味深く思った。ともかく、すべての歌手が本当に素晴らしい。音楽に関しては、私はただただ感動するばかりだった。
演出については、合唱団が衣装のマントを変えることによって、白や赤や黒に即座に変化させる仕掛けには感嘆した。状況に応じ、音楽に応じて即座に舞台の雰囲気が変わる。しかも、それによって合唱団の気持ちを表す。ただ、ずっと地底のようなところで物語が展開し、穴から月や空が見えることの意味については理解できなかった。もしかして、ウクライナに端を発する第三次世界大戦で地球が崩壊したのちの世界を描き、「東からの攻撃」に備えて団結しようというメッセージが含まれるのかな?とも思ったが、あまり自信はない。
なお、私はこれを昨日(2023年4月21日)の午前開始の上映を東銀座の東劇でみた。その後、かつしかシンフォニーヒルズに向かって、昨日このブログに書いたネマニャ・ラドゥロヴィチとドゥーブル・サンスの演奏を聴いたのだった。5時間のライブビューイングの後のコンサートはなかなかハードだった。しかも、昨日も書いた通り、先週、短期入院しており、3つのコンサートのチケットを無駄にした後の久しぶりのオペラ映画とコンサートだった。時間の長さもさることながら、音楽の充実ぶりを含めて、3回分の欠席のリベンジができたと思った。
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コメント
樋口先生、初めてコメントさせていただきます。
伝令役は、ブライアン・マリガンという人です。
《ばらの騎士》にも、ファーニナル役で出演します。楽しみですね。
この《ローエングリン》、元々ボリショイ劇場との共同制作の予定でしたが、ウクライナ侵攻が原因で急遽、MET単独で制作することになりました。
(今後上演される《アイーダ》《サロメ》も同様)細かな変更はあると思いますが、演出プランはボリショイと同じです。
投稿: さかもと | 2023年4月25日 (火) 23時27分
さかもと様
コメント、ありがとうございます。
そして、ブライアン・マリガンについて、またボリショイ劇場のこと、お教えてくださり、ありがとうございます。まったく知りませんでした。
そうですか、ファーニナルをこの人が歌うんですか。もしかすると、これまでなかったような魅力的なファーニナルになるかもしれませんね。楽しみです。
投稿: 樋口裕一 | 2023年4月26日 (水) 23時32分