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オペラ映像「ラクメ」「ボリス・ゴドノフ」「リゴレット」

 2023年も5月に入った。すでにゴールデンウイークに突入している。明後日からは、4年ぶりのラ・フォル・ジュルネが始まる。今年はベートーヴェン特集。規模が縮小されているが、楽しみな演目も多い。

 数本オペラ映像をみたので、簡単に感想を書く。

 

ドリーブ 「ラクメ」 2022年10月4,6日 パリ、オペラ・コミック 

 NHK・BSプレミアムでみた。「ラクメ」を放送してくれるのはありがたいことだが、いったいどうしてこんな珍しいオペラをやってくれるんだろうと思ってみたのだった。しかし、ラクメを歌うサビーヌ・ドゥヴィエルの声を聴いてすぐに納得した。このレベルの上演だったら、モーツァルトにもワーグナーにもシュトラウスにも負けない。圧倒的な感銘度だと思う。

 何はともあれ、ドゥヴィエルの声の美しさに圧倒される。コロラトゥーラ・ソプラノの声というと、古いところでは、リタ・シュトライヒやジョーン・サザーランドの録音、グルベローヴァやデセイの実演に私は心を奪われてきたが、それとは一味違う声質だと思う。透明で純粋。この世のものとも思えない美しさ。しかも完璧に声がコントロールされている。ヒンドゥー教の神の子とみなされているこの役にまさにぴったりといえるだろう。

 ラクメの父親ニラカンタを歌うステファヌ・ドゥグーもそれに劣らぬ凄さ。迫力ある美声だが、完璧にコントロールされている。ラクメに恋をするジェラルドのフレデリック・アントゥンもとてもいい。

 ラファエル・ピションの指揮(調べてみたら、私はナントの2011年のラ・フォル・ジュルネでこの人の演奏を感動して聴いたことがあるようだ)もとても情感にあふれていていい。

 演出はロラン・ペリー。この人らしいとてもセンスのいい演出だと思う。登場人物がリズミカルに動き、軽やかに舞台が進む。だが、いつもの軽妙さ、コミックさではなく、不思議な神秘性が含まれている。時代は現代に移されているが、新解釈はないと思うし、もちろん読み替えもないと思う。それでも、とても新鮮。演出はこうであってほしい。

 ただ、ピエール・ロティ原作のインドを舞台にした物語なのに、インド人たちがみんなむしろ白を基調としていることに違和感を覚えずにはいられない。黒塗りが差別の当たると考えてこのようになっているのではないか。ラクメはたぶん白髪に近い金髪で顔も実際のドゥヴィエル以上に白く化粧されていると思う。ペリーは黒塗りにできないのを逆手にとって、神秘性を強調するためにあえてそうしたのだと思うが、やはりこの物語には、「イギリスという先進国の士官と、旧弊な宗教を守る野蛮な有色のインド人の対立」という前提がある。インド人性を排除するということは、そのような根底にあるものを見ぬふりをすることだと思う。もちろん、これはペリーの責任ではないが、疑問を覚えてしまう。

 それにしても、「ラクメ」はなかなかの傑作だと思う。私に言わせれば、これは「カルメン」以上の傑作だと思う(逆に言うと、私は「カルメン」をそんな傑作だと思わない!)。美しい歌にあふれているし、薄っぺらなエキゾチズムだとはいえ、ストーリーも魅力的。もっと上演してほしい。いや、それ以上にドゥヴィエルをナマで聴きたいものだ。

 

ムソルグスキー 「ボリス・ゴドノフ」2022年12月7日 ミラノ・スカラ座(NHKプレミアムで放送)

 これも、NHKプレミアムで放送されたもの。指揮はリッカルド・シャイー、演出はカスパー・ホルテン。

 とても良い上演だと思う。シャイーの指揮は研ぎ澄まされてドラマティック。繊細でメリハリがあり、知的なアプローチ。ぐいぐいとドラマを推進してゆく。演出については、登場人物は現代の服を着ており、このドラマが現代に通じることを明確にしている。殺された皇子の亡霊がずっと舞台上に現れ、ボリスの子どもたちの幻想の亡霊も登場する。最後、ボリスは刺殺される。陳腐で見え見えの演出に思える。

 歌手陣はそろっている。とりわけボリス・ゴドノフを歌うイルダール・アブドラザコフの声の威力と歌の演技力に圧倒される。この歌手については、何度か映像でみて、そのすごさは知っていたが、それにしても余裕のある声で苦悩のボリスを掘り深く歌って素晴らしい。

 ただ、このような演奏と演出では、このオペラの魅力である、得体のしれない巨大さがなくなる。ドストエフスキーやゴンチャロフやブルガーコフにもつながるような不気味さが薄れてしまう。ソルグスキーの不器用さもこのような雰囲気を作り出しているのだが、この上演では、全体的にスマートで、まったく不器用な雰囲気がない。こじんまりとしてしまう。きっとシャイーは意図的に従来の演奏を嫌い、彼らしい現代的で知的な演奏をしたのだろうが、やはり私としては物足りなく思ってしまう。

 

ヴェルディ 「リゴレット」 1977年11月 メトロポリタン歌劇場

 伝説の名演ということになるだろう。以前からのこのDVDが存在することはよく知っていたが、格安で売られていたので、購入。「リゴレット」は数本のソフトを見ているが、これは初めて。確かに素晴らしい。

 やはり圧倒的なのは、マントヴァ公爵を歌うプラシド・ドミンゴ。声の威力もすさまじいが、演技も見事。声だけではパヴァロッティの美声にはほんの少し負けるかもしれないが、外見も含めると、やはりドミンゴがこの役に最もふさわしいと思う。リゴレットのコーネル・マックニールという歌手には私はあまりなじみがないのだが、なかなかの歌唱だと思う。ちょっとコントロールしきれていない個所を感じるが、全体的にはこの役を見事に演じている。そして、ジルダのイレアナ・コトルバスもとてもいい。この人が歌うと、しとやかで健気でおとなしいジルダになるが、確かにその方がこの役にふさわしい。

 そのほか、さすがメトロポリタンというべきか、外見的にもこの役にふさわしい歌手ばかりで、映像としても楽しめる。

 指揮は、若き日のジェイムズ・レヴァイン。思い切りがよくて、ドラマティックで、これも素晴らしい。演出はジョン・デクスター。かつてのスタンダードだと思う。違和感はない。

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