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マロオケのベートーヴェン 第5番の素晴らしい高揚

 2023812日、サントリーホールで「マロオケ古典派浪漫」を聴いた。指揮者なし、「篠崎史紀と39人の武者たち」による演奏で、曲目はベートーヴェンの交響曲第5番、第6番、第7番。

 メンバー39人は篠崎史紀さん(マロさん)の呼びかけに応じて集まった全国のオーケストラで活躍する名手たち。郷古廉、伊藤亮太郎、大江馨、笹沼樹がふくまれる。マロオケはこれまでも指揮者なしの演奏を行ってきたらしいが、私は今回初めて聴いた。名手が集まれば、指揮者なしでも見事な演奏が可能になる。まさにそれを証明するような演奏だった。

 それぞれの曲の演奏前に、マロさんとほかのメンバーとのトークがあったが、マロさんがいかに信頼されているか、そして、指揮者なしで演奏することをメンバーがひそかに喜びを感じていることがうかがい知れた。

 コンサートマスターのマロさんが大きな身振りで全体に指示を与えている。が、音楽はかなり演奏者たちの自発性を尊重しているようだ。指揮者がいないと、ただ合わせているだけの、はっきりした方向のない音楽になりがちなのだが、さすがにこれほどのメンバーになると、きっと他のメンバーの音を聞きながら自分たちの音楽を作っていけるのだろう。

 なるほど、オーケストラのメンバーはこのような音楽を作りたいのか!と納得のいくような演奏だった。全員が楽器を美しく鳴らそうとする。そのため、一つ一つの楽器がニュアンス豊かになる。第6番「田園」の第2楽章など、木管楽器が本当に雄弁。ただし、これほどのメンバーだと自分の楽器ばかり目立たせようとするのでなく、時にしっかりと脇役に回ることもできる。そのため、実に豊かな音楽になっていく。

 第5番がとりわけ素晴らしかった。第3楽章以降は言葉をなくす凄さ。まさに奏者が自発的に一つになって音楽に集中している。凄まじい推進力で音楽が進んでゆき、大きく高揚した。その高揚は演奏者たちの高揚でもあっただろう。

 第6番は、曲自体の性格のせいか、盛り上がりには欠けたが、これも一つ一つの楽器の美しさが存分に発揮された演奏だった。

 第7番は、大いに盛り上がったが、私の耳にはとりわけ終楽章などアンサンブルが乱れそうになっているように聞こえた。指揮者がいないためにリズムが少し不確かになり、切れが悪くなった。だが、さすがというべきかギリギリのところでとどまり、すぐに立て直して激しく高揚していく。ちょっと乱れつつあるところが、ある意味でスリリングでもあり、ある種の熱狂を作り出している。

 アンコールはベートーヴェンの交響曲第1番の第4楽章。これは文句なしに素晴らしい演奏だった。やはり指揮者がいない場合、このくらいの規模の音楽が最も合わせやすい。すべての楽器が一体となり、生き生きとした音楽を作っていく。

 指揮者の個性的な演奏を聴くのもいいが、時にはオーケストラメンバーが思いっきり自分の楽器を鳴らすのもいいなあと、つくづく思った。

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