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吉田志門のフォレと木下牧子の歌曲に感動!

 2023824日、ムジカーザで吉田志門・碇大知のリサイタル「いちばんすきなひとに」を聴いた。素晴らしかった。

 テノールの吉田志門については以前から名前は知っていたが、初めてリサイタルに足を運んだのは今年の1月だった。これまで聴いてきた世界的なテノールに匹敵する「水車小屋の娘」だと思った。今回、木下牧子の歌曲を中心に歌うとあって出かけてみた。

 木下牧子とフォレ(一般にフォーレと表記されるが、確かに、フォレのほうが原音に近い。本日のプログラムでも吉田さんのトークでも一貫してフォレとされていたので、ここでもそれにならう)の歌曲が数曲ずつ交代に歌われた。木下牧子は、確かにフォレに似た雰囲気がある。言葉を大事にし、繊細で内面的。ピアノのパートもまさに珠玉!

 木下牧子の「ほんとにきれい」「うぐいす」「竹とんぼ」「うつくしいもの」「秋のかなしみ」「きんいろの太陽がもえる朝に」など、素晴らしいと思った。そして、本日のリサイタルのタイトルにもなっている「いちばんすきなひとに」。これは確かに別格。フォレに似て、決して声を張り上げることなく、静かに淡々と深くて情熱的な感情を歌い上げる。それを吉田が素晴らしい美声で見事に歌う。感動した。ピアノの碇もしっかりと抒情を奏でる。

 私は日本歌曲をあまり聴かない。以前(たぶん、1970年代)、伊藤京子のリサイタルを聴いて、ほかの歌手の歌うのよりは聴きやすかったが、それでも西洋的なソプラノで歌われる日本語にかなり違和感があった。その後、ドイツやフランスの歌曲のプログラムに混じった日本歌曲も聴くことも何度かあったが、そのたびに、やはり西洋式歌唱と日本語は合わないと思ってきた。

 だが、吉田志門の木下牧子を聴くと、まったくそんなことはない! 木下牧子の歌曲自体がきわめて自然な日本語だが、吉田の語り口もまさに日本語の発声で、日本語の詩を歌っている。言葉がはっきりと聞き取れ、言葉の意味がしっかりと伝わる。リリックではあるが、知的にコントロールされているので、いっそう詩情が伝わる。

 木下牧子の歌曲がフォレの歌曲にまったく引けを取らないと示してくれた。ぜひ吉田の歌で木下牧子の真価を世界に知らせてほしいと思う。

 フォレの歌曲も素晴らしかった。初期のフォレの初々しい感情のほとばしりがしっとりと繊細に、しっかりしたフランス語で歌われた。フランス語の響きを大事にして繊細に歌っているのがよくわかったが、ただ鼻母音がかなり控えめなのが気になった。何か意図があったのだろうか。

 アンコールは木下牧子の「ねこぜんまい」、フォレの「消えない香り」、そして木下牧子の「音楽」。いずれも素晴らしい!

 吉田志門は、私の知る限り、初めて日本に現れた世界的なリート歌手(フランス語では、リートと言わずメロディというが)だと思う。今後が楽しみだ。

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