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侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の「風櫃の少年」「童年往事」「恋恋風塵」

 リバイバル公開された「少年」の衝撃が大きかったので、ソフトを購入して侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の映画を見続けている。簡単な感想を記す。

 

「風櫃(フンクイ)の少年」 1983年 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)

 素晴らしい映画。

 おそらく、1960年代。台湾の離島の寒村、風櫃に住む兵役前の少年アーチン(鈕承澤)は3人の友人と悪さを繰り返し、けんかに明け暮れている。警察沙汰を起こして、村にいられなくなり、友人二人とともに、友人の姉を頼って高雄で働き始める。紹介されたアパートで男と同棲している女性シャオシンに恋心を抱く。シャオシンの同棲相手は犯罪を起こして逮捕され、釈放を機会に高雄を離れる。アーチンとシャオシンは接近するが、別れざるを得ない。

 現状に飽き足らず、周囲と衝突を繰り返し、あまりに愚かな行動をとりながらも成長していく少年の心を初々しく描いている。閉塞的であるために憎悪を覚えがらも心の中心にある故郷の島と貧しい家族、大都会に出ての戸惑い、淡い恋。私にも覚えがある。自分を重ね合わせる人は日本人の中にも多いだろう。二人の友人の造形も見事。三人の行動は愚かしくも、懐かしい。「四季」などのヴィヴァルディやバッハのアリアなど、バロック音楽が主人公の心情を表現するのにとてもうまく使われている。

 映像は美しく、俳優たちの演技も申し分なく、まさに初々しく生き生きとした人々。とても良い映画だと改めて思った。

 

「童年往事 時の流れ」1985年 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)

 監督の自伝的作品だという。「少年」とよく似たストーリー。時代も同じころで、1960年代だろう。

 アハ(游安順)は、戦後になって広州から台湾に移住した一家の子どもで祖母や両親、五人のきょうだいとともに暮らしている。幼いころから負けん気が強く、家族を困らせている。高校生になるころには、肺病で病弱だった父は死に、母もがんに侵されて死ぬ。祖母も認知症のため一人で行動できなくなる。苦しい中、アハは不良少年と付き合い、敵対するグループとの抗争に巻き込まれ、家族や周囲に迷惑をかけ続けている。それでも家族を思い、恋をして成長していく。

 それだけの映画だが、台湾の少年たちの日常、心の機微が淡々と描かれて深く感動する。いや、それよりなにより、戦後に九州に生まれた私(私は1951年生まれだから、47年生まれのホウ監督よりも4歳年下ということになる)としては、まるで自分の子どもの頃の光景を目の当たりにするようで懐かしい。台湾が日本領土であったせいだろうが、子どもたちの服装も遊びも部屋の作りも私が子どもの頃の状況とほとんど変わらない。それだけで私は感情移入してしまう。そうやって描かれるアハの姿は、自分自身とは言わないまでも、周囲にいた友人たちの姿と重なる。

 

「恋恋風塵」 1987

 舞台は九份だという。山間の村に近所同士で兄と妹のように育ったアワンとアフン。アワンは中学を卒業すると台北に出て仕事をしながら、夜間高校に通うようになる。翌年、アフンが遅れて台北にやって来て、交流を続ける。二人は恋人同士のように心を通わせるようになる。だが、アワンは兵役に就くことになる。初めのうちは、アフンからの手紙が続くが、突然、それが途絶え、アフンがほかの男性と結婚したことが知らされる。

 兵役に出ている間に、恋人がほかの男と結婚…という出来事は世界中で起こっているだろう。だから、ごくありふれた出来事には違いない。私の印象に残っているものとしては「シェルブールの雨傘」がまさにこのようなストーリーだった。

 だが、映像美、俳優たちの動き、わき役たちの何気ないやり取り、地方と都会の生活感、モノの質感など、この映画はまさに独特。まじめで、でも少し不器用で、やさしくアフンを見守り、傷つくアワンの気持ちがとてもよくわかる。善良な家族、陳腐な教訓を語り続ける祖父、野外映画界などの村の営みなど、さりげない存在感が素晴らしい。

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