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オペラ映像「オルフェオ」「ウリッセの帰還」「ポッペアの戴冠」「ヴォツェック」

 先週、原稿を編集者に送ったので、その後、中間テストが終わった後の高校生のようにごろごろして余暇を楽しんでいる。次の仕事にかかる前にもう少しゆっくりしたいと思っている。ニュースを見ると、イスラエルのガザ侵攻やらウクライナ情勢やら腹の立つことばかりだが、ともあれオペラ映像を数本見たので、簡単な感想を記す。

 

モンテヴェルディ 「オルフェオ」2017619日 ヴェネツィア、フェニーチェ歌劇場

 私はバロック・オペラにはあまりなじんでいないのだが、しばらく前にガーディナー指揮のモンテヴェルディの3枚組BDが安売りされていたので購入した。なかなか機会作れなかったが、やっと少し暇になったので、観てみた。

「オルフェオ」は以前、アーノンクール指揮のDVDでみたことがあるが、それ以来。とてもおもしろかった。

 音楽史的にどのような意味なのかはよくわからないが、簡易な舞台でオーケストラの周囲で歌手たちが歌う。その歌手たちのレベルがとても高くて、引き込まれる。オルフェオのクリスティアン・アダムもいいし、エウリディーチェのハナ・ブラシコヴァもいい。ふたりともバロック・オペラにふさわしい明瞭で音程のいい歌唱。使者のリュシール・リシャルドは凄味がある。その他の歌手たちも素晴らしい。

 エウリディーチェの死が伝えられる場面、そしてオルフェが振り向いてしまう場面は、緊迫感にあふれている。

 

モンテヴェルディ 「ウリッセの帰還」2017620日ヴェネツィア、フェニーチェ歌劇場

「オルフェオ」同様にほんとうにレベルの高い演奏。ほとんどすべての歌手たちが舌を巻くほどにうまい。声も美しく音程もよく声のコントロールも見事。その中でも、ウリッセのフリオ・ザナージの軽やかで高貴な声での自在な歌に圧倒された。そのほか、ペネーロペのリュシール・リシャルド、テレーマコのクリスティアン・アダム、メラントのアンナ・デニスがとてもいい。カウンターテナーのミハウ・チェルニアフスキも見事。

 バロック・オペラはほとんど聞かないので、詳しいことはわからないが、ガーディナーの指揮もイングリッシュ・バロック・ソロイスツのメンバーも見事というしかない。

 現代のラフな服装をした歌手たちが少しだけ振りをつけて歌うだけで、舞台設定など何もないが、十分にオペラ的幻想を抱くことができる。

 

モンテヴェルディ 「ポッペアの戴冠」2017625日 ヴェネツィア、フェニーチェ歌劇場

 これまたとても良い演奏。ポッペアのハナ・ブラシコヴァをはじめ、ほかの二つのオペラの主要な役を演じていた歌手陣はもちろん素晴らしい。「ウリッセの帰還」では少し不調で声が出ていなかったジャンルカ・ブラットもここではしっかり歌っている。そして、ネローネのカンミン・ジャスティン・キムに驚いた、韓国生まれのカウンタテナーだとのこと。バロック・オペラに疎い私はこれまでこの歌手を知らなかったが、それにしても韓国のオペラ歌手の活躍はすさまじい。

 ガーディナーの功績なのか、ほかに優れた手腕の人物がいるのか、これほどまでによい演奏家を集める、あるいは育てるのは並大抵のことではないと思うのだが、いったい、どうなっているのだろう。3本のオペラを見て、モンテヴェルディのオペラの楽しさと同じほどに演奏人の充実に驚いたのだった。

 

ベルク「ヴォツェック」 エクサン・プロバンス音楽祭2023年(NHKプレミアムにて放送)

 NHKプレミアムで放送されたものを録画して鑑賞。一言で言って、とてもいい演奏! さすがサイモン・ラトルの指揮だけあって緻密で緊張感にあふれており、また官能的でもある。歌手陣もヴォツェックのクリスティアン・ゲルハーヘルは、これはほとんど持ち役といえるようなものなので、見事というしかない。マリーのマリン・ビストレム、鼓手長のトーマス・ブロンデレ、大尉と愚者の二つの役を歌っているピーター・ホーア、医者のブリンドリー・シェラット、アンドレスのロバート・ルイスもいうことなし。

 と言いながら、実は私は期待していたほどの衝撃は受けなかった。もしかしたら、今、仮住まいにいてひどい再生装置で聴いているせいもあるのかもしれないが、鮮烈さを感じなかった。ラトルの指揮も、グルハーヘルの歌唱もどうしても「手慣れた」という感じがしてしまう。それに、やはりいくらオペラだといっても、そしていかにゲルハーヘルが名人だからといっても、シリアスなこのオペラで現在の年齢でヴォツェックの役を演じるのは無理がある。失礼ながらゲルハーヘルの容貌は知的で温和な高齢者に見えてしまう。

 サイモン・マクバーニーの演出は映像を多用したもので、このオペラのモザイク的で錯乱的な雰囲気を描き出していた。いくつかの場面で、医者の格好をした少年が黙役で登場した。医師の幻影(ドッペルゲンガー)ということだろうか。それにしても、この少年の動きが実に様になっている! 面白い演出だと思った。

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