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オペラ映像「ニュルンベルクのマイスタージンガ―」「リゴレット」

 2023年もあと数日。今年予定しているコンサートは、第九があと一回のみ。仮住まいのマンションで貧弱な装置を使って遠慮がちな音で音楽を聴いているが、ともあれオペラ映像をみたので、簡単な感想を記す。

 

ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガ―」2022629日、72日 ベルリン・ドイツ・オペラ

 全体的にとても充実した上演だと思う。

 歌手陣では、この上演の最大のスターはヴァルターを歌うクラウス・フロリアン・フォークトだろうが、かつての輝きがないのが残念。もちろん悪くないし、素直な歌い方は健在で、だんだんしり上がりに調子を上げるが、前半、声の衰えを感じた。以前はもっと張りがあり、もっと自然な美しさにあふれていた。ハンス・ザックスのヨハン・ロイターもとてもいい。自在に余裕をもって歌う。ベックメッサーのフィリップ・イェーカル、エーファのハイディ・ストーバーもしっかり歌っている。

 もう一人特筆したいのは、ダーヴィトのヤーツォン・ホァン。台湾出身のテノールだが、きれいな声、そして見事な演技力。これまで見てきたダーヴィトとはまったく違うは、これはこれでこの役らしい。

 指揮はジョン・フィオーレ。あまり個性を感じなかったし、第一幕冒頭ではもたついているように聞こえるが、後半は音楽に乗って堅実にオペラを進めていく。

 最も注目するべきは演出(ヨッシ・ヴィーラー、セルジオ・モラビト、アンナ・フィーブロックの3人の名前が演出家として並んでいる)だろう。ニュルンベルクの街を、現代の学校に見立てている。寄宿学校といったところ。マイスタージンガーたちは学校の先生たち。徒弟たちはゼミ生、ほかの合唱隊は一般生徒といった感じ。唯一、ザックスが生徒に人気の先生。ポーグナーが校長、ベックメッサーを筆頭するマイスタージンガーたちは頭の固い先生たち。第二幕の大混乱が起こるのは寄宿舎内の出来事で、マイスタージンガーたちも寄宿舎の中で寝泊まりしているらしい。第三幕は学内のホールでの発表会といったところ。それなりに辻褄があっている。

 1960年代の狂気としか思えないような学則の厳しい九州の高校(何しろ、丸坊主が強制され、生徒のほとんどが「坊主頭のほうが高校生らしい」というので、それを当然と思っていた!)で圧迫感を必死にこらえて地獄の日々を送った私としてはこのアナロジーはとてもよくわかる。ぐっと卑近になり、スケールが小さくなるが、原作の思想はそのまま引き継いだ演出とは言えそうだ。

 最後、ザックスがドイツ芸術を称え、国家主義的な内容を語る部分は、舞台の明かりが揺れて、主催者がこの意見に同意しているわけではないことを示す。そして、舞台上の群衆(学生やその保護者達という想定。その中には東洋系、アフリカ系が混じっている)がツイストを踊りながら反応する。それに対してマイスタージンガーたちは渋い顔をする。つまりは、ザックスの語る内容が、グローバルで多様性を認める芸術への賛歌としては賛成であることを演出で示している。

 スケールの大きさはなくなるが、それを抜きにすれば、きわめて納得のいく演出だと思う。

 

ヴェルディ 「リゴレット」2017年 リセウ大劇場

 新発売だと思うが、5年以上前の録画。素晴らしい上演だと思う。まず、リゴレットのカルロス・アルバレスがまさにリゴレットが乗り移ったような熱演。屈折した状況の中であがく様子が痛々しいまでに伝わってくる。マントヴァ公爵のハビエル・カマレナもしっかりした美声。さすがの歌唱。貴族とは思えない容姿なのだが、それを忘れるほど力にあふれ、魅力にあふれた声。ジルダはデジレ・ランカトーレ。美しい高音で清純な乙女を見事に歌う。マッダレーナのケテワン・ケモクリーゼがとても魅力的。セクシーな容姿とそれにふさわしい強い声。四重唱は聴きごたえがある。

 指揮はリッカルド・フリッツァ。悪くないし、しっかりとドラマを盛り上げるのだが、私が貧弱な装置で聴いているせいもあるのかもしれないが、音に威力がなく、音楽を推進していかない気がする。

 演出はモニク・ワーゲマーカース。大道具・小道具も装置もほとんどない簡素な舞台で、ほとんどが四角い囲いの中で登場人物が動くのだが、貴族やその取り巻きを演じる合唱団の不気味な衣装やメイキャップや仕草によって不穏な空気を掻き立ててとても刺激的だった。これほど簡素な舞台でもこれほどまでにドラマティックにできるのは驚きだ。演出の一つの模範だと思った。

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