昨日は鏡開きということで、今年の正月も終わったということだろう。不穏な年を予言するかのような様々な出来事の続く正月だった。物事が早く解決して、明るい年に向かってほしいものだ。
数本、オペラ映像をみたので感想を記す。
ロッシーニ 「湖上の美人」 2016年 ぺーザロ、アドリアティック・アリーナ
2016年の映像だが、新発売だと思う。素晴らしい上演。以前、同じマリオッティ指揮、メトロポリタン劇場の素晴らしい映像があったが、それに匹敵する。
ジャコモ5世のフアン・ディエゴ・フローレスはさすがの輝かしい声。りんりんと響き渡る。エレナ役のサロメ・ジーチャもとてもいい。メトロポリタン盤のディドナートほどの躍動感はないが、美しい声と確かな技巧、しっかりした音程、そしてきれいな容姿、すべてそろっている。最後の歌も素晴らしい(ただ、私は浜離宮朝日ホールで先日聴いた脇園さんの声のほうにより感動を覚えたが、実演なので、それは当然だろう)。ロドリーゴのマイケル・スパイアーズもフローレスに負けない強い高音が素晴らしい。そして、マルコム役のヴァルドゥイ・アブラハミヤンも文句なし。メトロポリタン盤のバルチェッローナに引けを取らない。ダグラスのマルコ・ミミカは音程が不安定。
ミケーレ・マリオッティの指揮は、この人らしく躍動感にあふれている。この人のロッシーニは本当に圧倒的。ボローニャ・テアトロ・コムナーレ管弦楽団&合唱団はちょっと雑な気がするが、特に不満はない。
ただダミアーノ・ミキエレットの演出に問題を感じる。冒頭に老年になったマルコムとエレナとみられる男女が登場。マルコムはエレナがジャコモ5世の肖像画に捧げものをするのを不快に思っている。そうして過去に戻ってオペラが始まる。場面場面に高齢の男女が黙役で登場し、あれこれのパントマイムを行いながら過去に立ち会う。最後、マルコムはかつての事情を知って王に対する敬意を持つのかと思っていたら、王にもらった贈り物を投げ捨てる。どうやら、王の施しに反発を覚えたようだ。つまりは、このオペラの王様崇拝的な傾向に異議を唱えているのだろうか。
だが、わざわざそのようなことを、今更する必要があるのか。二人の高齢者を出して、ずっとパントマイムをさせて音楽の邪魔をしてまで主張するほどのこととは思えない。それとも私には理解できないもっと深いメッセージがここには隠されているのだろうか?
チャイコフスキー 「イオランタ&くるみ割り人形」2022年 ウィーン、フォルクスオーパー
「イオランタ」と「くるみ割り人形」を、チャイコフスキーは同日に上演するつもりで作曲したとのこと。そんなわけで、この上演はその二つを合体したヴァージョン。「イオランタ」を抜粋したものが上演され、その間に「くるみ割り人形」の音楽とバレエが入る。イオランタとそっくり同じ衣装のバレリーナが登場。
ただ、あまりに中途半端。「イオランタ」の良さも「くるみ割り人形」の良さもなくなって、つまらないものを見せられたという印象を持つ。まあ、音楽に関して保守反動の私のきわめて個人的な意見ではあるが。この頃、「イオランタ」に関して、このような上演が多いようだ。同じように、「くるみ割り人形」と合体したものを前に見た記憶がある。ストラヴィンスキーの「マヴラ」と合体したものもあった。困った流行だと私は思う。そんなつまらないことをするより、じっくりと「イオランタ」を味わわせてほしい。
演奏もあまりよくない。指揮のオメール・メイア・ヴェルバーもウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団も緻密さに欠け、精度が高くない。歌手陣についても、ドイツ語歌唱のせいか、チャイコフスキーらしさが伝わってこない。オレーシャ・ゴロヴニョーワのイオランタは悪くはないのだが、しっとりした魅力に欠ける。ルネ王のステファン・チェルニーも安定はしているが、それ以上のものを感じない。ベルトラン役で平野和が出演している。フォルクスオパーの一般的な上演はこのようなレベルなのだろうか。
こんな際もののソフトだったら買わなければよかったとつくづく思った。
モーツァルト 「コジ・ファン・トゥッテ」2020年8月2日 ザルツブルク祝祭大劇場
NHK・BSで放送されたもの。私は録画して見始めたのだが、放送時の天候のせいか、私の使っている機材の不具合のせいか、時々画面が乱れる。よって市販のDVDを購入(なぜか、ブルーレイディスクは販売されていない!)。ただ、DVDには日本語字幕がないので、やはり放送を焼いたBDディスクをセットしてみようとしたら、なんと「非対応ディスク」という表示が出て、何度試してもかからない! この同じ機械で記録したのに! うーん、どういうことだ!! ほかに作ったBDも見られなくなるとすると怖い。ともあれ、市販のDVDをみた。なお、コロナ禍の上演であるためか、かなりカットがあるようで、覚えのある場面がなかったりする。上演時間も短め。
指揮は、今話題の女性指揮者ヨアナ・マルヴィッツ。オーケストラはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。オーケストラに関しては、清潔で切れが良くてリズミカルで自然な演奏で素晴らしい。理想的なモーツァルトと言ってもよさそう。話題になるだけのことはある。
歌手陣もそろっている。まるで演劇のように容姿もよいし、演技力もある。フィオルディリージのエルザ・ドライジグ、ドラべッラのマリアンヌ・クレバッサ、グリエルモのアンドレ・シュエン、フェランドのボグダン・ヴォルコフ、ドン・アルフォンソのヨハネス・マルティン・クレンツレ。いずれも抜きんでているとは思わないが、バランスがいいし、指揮や演出と相まって、自然でこまやか。
演出はクリストフ・ロイ。コロナ禍中のあまり気合の入っていない上演であるせいか、実に簡素で、しかもみんなが現代の服を着て、変装もほとんどしない。ただ、そのせいかもしれないが、まさしく誇張のないかなりリアルな現代劇になっている。これはこれでいいだろう。
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