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オペラ映像「さまよえるオランダ人」「サムソンとデリラ」「ロメオとジュリエット」

 暖かくなったり寒くなったり。そのせいかもしれない。軽い風邪を引いた。のどが痛いと思いながら宅配便の配達員に対応しようとして、声が出ないことに気づいた。医者に診てもらったところ、コロナでもインフルエンザでもなく、単なる風邪だとのこと。今はだいぶ回復している。

 オペラ映像を数本見たので、簡単な感想を記す。

 

ワーグナー 「さまよえるオランダ人」2022716日 ブルガリア、パンチャレヴォ湖音楽祭

 期待しないで購入したが、思った以上に出来は良くない。ソフィア国立歌劇場の上演したワーグナーのブルーレイディスクが何枚か発売され、もしかしたらめっけものかもと思ってこれまでみてきたが、やはりどれもはるか世界の水準に達していない。今回もやはり、はっきり言ってかなりひどい。

 まず、この場所の音楽的環境について疑ってしまう。野外オペラなので、ある程度は仕方がないが、それにしても信号のような音が入るところがあった。また、花火のような音も続く。音楽に耳を傾ける環境ではない。

 演奏そのものもほめられたものではない。オーケストラ(ソフィア国立歌劇場管弦楽団)の精度がよくない。よれよれの音を出す。いやいやそれ以上に合唱(ソフィア国立歌劇場合唱団)となると、日本のアマチュア合唱団の多くがこれよりも上手なのではないかと思えるほど。音があっていない、音程のおかしな団員がたくさんいる。ロッセン・ゲルゴフの指揮も、歌手と合わせるのに精いっぱいという感じ。

 歌手陣もレベルが高くない。その中では、ゼンタのラドスティーナ・ニコラエワが最も健闘。細かい声の処理が少し雑だが、全体的にはしっかりと歌っている。マリー役のアレクサンドリーナ・ストヤノヴァもしっかりと歌ってとてもいい。ダーラントを歌うクルト・リドルは往年の名歌手だが、さすがにすでに70歳を過ぎて、第二幕のアリアは途中で声が出なくなっている。オランダ人のマルクス・マルクヴァルトも前半は検討しているが、音程が怪しく声が出なくなる。エリックのコスタディン・アンドレーエフはひとり大時代的な歌いまわしでオーケストラを無視して朗々と歌うが、声の処理も甘い。

 プラメン・カルタロフの演出も、何しろ湖畔での野外劇ということで制約があるとはいえ、湖畔に組み立てられた、まるで目をかたどったようなステージで物語が進むだけで、少なくとも私は特に感銘を受けない。こんなものをお金を取って売っていいのだろうかと疑ってしまった。

 

サン=サーンス 「サムソンとデリラ」2022610,19日 ロイヤル・オペラ・ハウス

 近いうちに、「サンソンとダリラ」と呼ばれるようになると思うが、ともあれ従来の呼び方に基づいておく。

 前半はかなり抑え気味。もしかして、パッパーノはフランスものが苦手?と思っていたが、あの有名なデリラのアリアあたりからパッパーノらしさが全開。デリラのむんむんとした色気とサムソンの魂の葛藤がぐいぐいと音楽を引っ張り始める。なるほどこのようなつくり方もあるなあ!と感心した。

 デリラはエリーナ・ガランチャ。今やこの役はこの人以外は考えられないほど。妖艶で強靭で美しい歌と容姿。申し分ない。サムソンはソクジョン・ベク。注目の韓国人歌手だ。リリックな美声。ただ、サムソン役としてはちょっとリリックすぎる気がする。もう少し強靭さがほしい。ダゴンの大祭司を歌うウカシュ・ゴリンスキはあまり声が出ていない。

 演出はリチャード・ジョーンズ。兵士が抑圧されている人々を占領者たちが監視し、虐め、いたぶっている現代のどこかの場所が舞台になっている。今、これを見ると、だれもがガザ地区を連想するだろう。台本では抑圧されているのはユダヤ人だが、現代の国際社会ではユダヤ人が抑圧する側に回っている。それを明らかに暗示している。

 

グノー 「ロメオとジュリエット」 (NHK/BSで放送)2023年6月23・26日パリ・バスティーユ

 

 全体的にはとても良い上演だと思う。ただ、冒頭に歌うキャピュレット家の若者たちの歌が硬いために聴く側としてはなかなかエンジンがかからない。初めに歌う歌手の出来は全体の印象を決定づけると強く感じる。

 主役格は見事。ロメオのバンジャマン・ベルネームはサイレント時代のハリウッドスターを思わせるような端正な容姿と端正な歌いっぷり。生真面目なロメオを作り出す。派手さはないが、素晴らしい。ジュリエットのエルザ・ドライシヒも可憐で清純な声がとてもいい。容姿の面でも十分にジュリエットに見えるし、表情や仕草がとてもリアルで、真剣に恋をする少女をうまく演じている。ただ、私にはときどきほんのかすかに音程がふらつくような気がするのだが、どうなのだろう。まあ、それでも十分に感動できる。キャピュレットのロラン・ナウリもさすがの歌唱。ロレンスのジャン・テトジェンも安定した美声。

 指揮はカルロ・リッツィ。グノーらしい、優美でロマンティックな要素を表に出して、とても良い指揮だと思う。もっとイタリア・オペラ風にバリバリ演奏するのかと思っていたが、そうでなく、しっかりとグノーを演奏してくれた。

 演出はトマ・ジョリ。新しい解釈はないと思うが、豪華絢爛な舞台装置の中で映画的でリアルな演技がなされて、ドラマとしてとても自然。

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