ホーネック&菊池 常識人のヴァイオリンに思えた
2024年3月18日 、東京文化会館小ホールで東京春音楽祭のひとつ、ライナー・ホーネック(ヴァイオリン)と菊池洋子(ピアノ)のデュオ・リサイタルを聴いた。ホーネックはウィーンフィルのコンサートマスターとして知られ、近年は指揮もしている。きっと素晴らしい演奏を聴かせてくれるだろうと期待して出かけた。曲目は前半にモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第34番K.378とシューベルトのヴァイオリン・ソナタ イ長調 D574、後半にコルンゴルトの「から騒ぎ」op.11 より 4つの小品とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番。
最も良かったのはモーツァルトだった。率直で思い切りがよく、とてもすっきりとしたすがすがしい演奏だった。菊池のピアノの音の美しさにほれぼれした。モーツァルトにふさわしい汚れのない、わくわくするようなピアノの音。
シューベルトは、ロマンティックな感興に少し欠けている気がした。コルンゴルトの「空騒ぎ」という曲は初めて聴いたが、とてもおもしろかった。ただ、これもシューベルトと同じように、ちょっと中途半端な気がした。菊池のピアノはいい。だが、ヴァイオリンにあと少しの個性がないように思う。清潔に、うまく弾いているのだが、それだけの感じがする。ふつうの常識人の奏でるヴァイオリンの音楽とでもいうか。音楽に酔わせてくれない。
ブラームスについても同じように感じた。ブラームスの晩年の深い思いがヴァイオリンの音に伝わっていない。終楽章は盛り上がったのだが、それでもやはりブラームスのやるせない感情、諦観を交えた情熱、人生の深い思いといったものが伝わらない。平明に、ただ音を強めているだけの感じがする。
アンコールはクライスラーの曲を中心に合計7曲の大サービスだった。だが、これも私には不満だった。もう少しクライスラーらしくウィーン的な情感を込めて歌うのか、それともウィットを効かせるのか、あるいはテクニックを聴かせるのか、何をしようとしているのかよくわからない。お行儀のよい常識人の音楽だった。
アンコールの一つが、前半のシューベルトのソナタの最終楽章だった。きっと前半の演奏に不満があったのだろう。確かに、アンコールでの演奏のほうがずっとドラマティックでよかった。だが、それでもちょっと味気ないシューベルトだった。
ホーネックはオーケストラのヴァイオリニストとしては超一流なのだろうが、自分の表現を強く押し出す人ではないようだ。ちょっと不満だった。
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