中野りなのヴァイオリン 率直な演奏に感動、しかし、ちょっと不満
2024年3月23日、旧東京音楽学校奏楽堂で中野里奈のヴァイオリン・リサイタルを聴いた。ピアノはルゥォ・ジャチン。東京春音楽祭の一環。
中野りなさんの名前だけは聞いた覚えはあったが、演奏を聴くのはこれが初めて。東京春音楽祭に抜擢されたのだから、きっと良いに違いないと思い、しかも演奏機会の多くないサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番が曲目に含まれているために、聴いてみたいと思ったのだった。
19歳の、まさについこないだまで中学生か高校生だったような清楚なお嬢さんに見えたが、最初の曲、シューマンのヴァイオリン・ソナタ 第1番の冒頭のヴァイオリンの音にびっくり。思い切りの良い、凄みのある音。そのような音で率直に強く弾く。そうなると、シューマンらしい夢想的な雰囲気は薄れるが、強い思いは迫ってくる。そして私のようなシューマンのあまりに濃厚なロマンティックな雰囲気を好まない人間には、このような表現は好ましい。ぐいぐい引き込まれた。これはこれで十分にロマンティックな世界が伝わる。ピアノのルゥォ・ジャチンも中野と同じようなかなり強い音で、率直に演奏。
次にパガニーニのロッシーニの「タンクレディ」の「こんなに胸騒ぎが」による序奏と変奏曲。見事なテクニック。ひけらかすわけでなく、やすやす弾きこなしてすがすがしい。歌心もあってとてもいい。
後半は、まずは中野ひとりでパガニーニの「24のカプリース」から第4番と第24番。実は、私はこの演奏はちょっと不満に思った。率直すぎる! もう少し、こけおどしというか、なにかしら大向こうをうならせるようなところがほしい。こんなに生真面目に演奏すると、パガニーニの良さが出ない。いや、いっそのことバッハのように弾いてもそれなりの深みが出るとは思うのだが、そうもなっていない。何を表現したいのかわからないような演奏だと思った。
次に、ルゥォ・ジャチンのソロでショパンのスケルツォ 第2番。とてもよかった。男性的な強い音で激しく弾きこなす。ダイナミックで躍動的。ショパンがけっして好きでない私も大いに惹かれて聴いた。
最後に私の目当てのサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ 第1番。これも率直な演奏。思い切りのよい音でズバリとひいて見事な世界を作り出していく。気高く清潔でスケールが大きい。ただ、残念ながら私の好きなサン=サーンスではなかった。率直すぎる! フランス的な屈折というのかエスプリというのか、そんなものがなく、あまりに屈託がない。それはそれで魅力的なのだが、得も言われぬ香りがしない。まっすぐすぎる。あと少しひねくれたところがほしいなあと思った。
とはいえ、これだけのテクニックと音楽性を持った若い女性の登場にとてもうれしくなった。次々と才能ある若者が登場して、こんなうれしいことはない。
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