東京春音楽祭「トリスタンとイゾルデ」 男性的でダイナミックな演奏!
2024年3月30日東京文化会館 大ホールで東京春音楽祭、「トリスタンとイゾルデ」(演奏会形式)を聴いた。指揮はマレク・ヤノフスキ、管弦楽はNHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ベンジャミン・ボウマン)。素晴らしい演奏だった。
先日、新国立劇場で、大野和士指揮の都響の名演奏を聴いたばかりだったが、こちらもそれに劣らない。ただし、正反対のタイプの演奏だといえるだろう。大野指揮は、スローテンポで精妙で官能的でしなやかでとろけるようだったのに対して、ヤノフスキ指揮は豪快で快速でドラマティックで男性的な激しく盛り上がる演奏。指揮によってこんなにも違うものかと改めて認識すると同時に、どちらのタイプの演奏でも最高の感動を与えるこの楽劇の凄さも改めて感じた。明るめの明快な音を重ねて、迸るような情熱を感じさせる。私は何度も感動に震えた。
歌手陣も充実していた。とりわけ、男性陣はとてもそろっていた。トリスタンのスチュアート・スケルトンは、もしかしたら少し不調だったのかもしれない。私が気付いただけで5音ほど声がかすれた。さかんに水を飲んでいたところを見ると、本人も大いに気にしていたのだろう。しかし、そうであったとしても、さすがの歌唱。張りのある見事な声。クルヴェナールのマルクス・アイヒェの美声は厚いオーケストラを圧して凛凛と響いた。素晴らしい。マルケ王のフランツ=ヨゼフ・ゼーリヒもこの役にふさわしい貫禄のある声。この3人の凄さに圧倒されるばかりだった。現在の世界最高の歌手陣だと思う。
イゾルデのビルギッテ・クリステンセン、ブランゲーネのルクサンドラ・ドノーセもとてもよかったが、男性陣に比べるとちょっと力不足だった。クリステンセンの「愛の死」は少し苦しかった。あと少しの声量がほしいと思った。日本人勢もしっかりと脇を固めていた。メロートの甲斐栄次郎、牧童の大槻孝志、舵取りの高橋洋介、水夫の金山京介、いずれも音程のよいしっかりした声。東京オペラシンガーズの合唱もとても声が伸びていて素晴らしかった。
・・・ただちょっとショックなことがあった。第一幕の途中で、後ろの席の人に、私の身動きを注意されたのだった。どうも私は音楽に合わせて体を揺り動かしていたらしい。もちろん、まったく意識していなかった。むしろ、私は音もたてず身動きもせず、模範的な聞き方をしていると思っていた。
ほかの曲の場合はそんなことはないと思うが、どうも私はワーグナーを聴く時、とりわけ「トリスタンとイゾルデ」を聴く時、身体を揺り動かす癖があるようだ。私は50年以上前から、家で陶酔しながら「トリスタンとイゾルデ」のレコードを聴いてきた。それ以来、100回以上(ことによると200回、いや300回以上)この楽劇を聴くたびに身体を揺り動かしていたのだろう。それが癖になっていて、実演を聴く時も、からだ全体で陶酔して聴くようになっているのかもしれない。反省! 先日、新国立劇場で「トリスタンとイゾルデ」を見て感動したのだったが、もしかしたらその時も私は身体を揺り動かして、後ろの席を人を不快にしていたのだろうか。これから気を付けたい。もし、これまで私が迷惑をかけた人がいたら、この場を借りて謝りたい。それにしても、改めて、自分の過失についてはなかなか気づかないものだと痛感する。
とはいえ、演奏は本当に素晴らしかった。そして、「トリスタンとイゾルデ」は本当に名作だとまたまた思った。
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