パーペの深い歌声に心を打たれた
2024年4月10日、東京文化会館小ホールでルネ・パーペ(バス)とカミッロ・ラディケ(ピアノ)のリサイタルを聴いた。1997年のバイロイト音楽祭だったと思う。初めてパーペの名前を知り、その豊かな太い声に驚嘆したのを覚えている。その後、何度となくパーペの歌を聴いてきた。今回、久しぶりにパーペの歌を聴いたが、相変わらずすごかった!
最初にモーツァルトの「無限なる宇宙の創造者を崇敬する汝らが」。モーツァルトがフリーメーソンのために書いた最後期の曲だ。冒頭の声の凄さにびっくり。なんと深くて美しい声。明瞭な発音による端正な歌いぶりだが、まったく堅苦しくなく、自然でふくよか。表現の幅が広くて、無理なく音楽が展開していく。低音のフォルテの威力もすさまじい。ピアノもぴったりついていうことなし。
2曲目は、ドヴォルザークの「聖書の歌」。昔、好んで聴いていたが、久しぶりにこの曲を聴いた。ドヴォルザークの真摯な信仰が伝わってくる歌曲集だが、パーペが歌うといっそう深みが増す。チェコ語はもちろんまったくわからないが、声の響きがとても美しい。ささやくようなピアニシモの音からフォルテシモまで、すべてが明瞭でそのダイナミックレンジの性能の良さに驚いてしまう。しかも、徐々に信仰心が盛り上がり、最後に高みに上る。曲の組み立ても意識しているのだろう。パーペはきわめて知的に、そして感動的に歌った。
後半は、まずクィルター作曲の「3つのシェイクスピアの歌」。1877年生まれのイギリスの作曲家だという。この作曲家の曲を初めて聴いた。親しみやすい曲だが、イギリス音楽にあまり理解のない私としては、おもしろいとは思わなかった。
最後にムソルグスキーの「死の歌と踊り」。実演で初めて聴いたが、これは凄い曲だと思った。ちょっと狂気じみたところがある。最初の歌はシューベルトの「魔王」を思い出すような母と死神との対話が語られる。まさに生と死の乱舞の世界が繰り広げられた。それをパーペは凄味のある声で歌う。ムソルグスキーの歌曲は、CDは持っており、一度はざっと聴いたが、それほど注目してこなかった。もっとしっかりと聴いてみようと思った。
アンコールは最初にシュトラウスの「献呈」。バスによるこの歌は初めて聴いたが、これはこれで地下から地上へと湧き出てくるようなわくわく感があってとてもよかった。次にシベリウスの「安かれわが心よ」。要するに「フィンランディア」に出てくるメロディの曲。最後に、パーペは、「たぶんシューマン」と言っていたが、ネットで調べたところ、「若者のための歌のアルバム 作品79より 第21曲子供の見守り」とのこと。しっとりとしてとてもよかった。
ところで、「聖書の歌」を聴くといつも思うのだが、最後の曲は、日本人としては「雪やこんこ」を思い出してしまう。ブラームスの「四つの厳粛な歌」の最初の曲も「コガネムシ」にそっくり。ブラームスとドヴォルザークのいわば師弟の代表的な男性のための宗教的な歌がいずれも日本の唱歌にそっくり。きっとこれは偶然ではないと思う。その昔、どこかのサークルで宗教的な歌曲が演奏されており、それを聴いた日本の作曲家が影響を受けて唱歌を作ったのではないかと思うのだが、確証が得られずにいる。
私はしばらくパーペを聴いていなかったが、久しぶりに聴くとやはり凄まじい。感動した。
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