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ルイテンの「四つの最後の歌」にしびれた!

 202444日、東京文化会館小ホールで、東京春音楽祭歌曲シリーズ、レネケ・ルイテン(ソプラノ)とトム・ヤンセン(ピアノ)のリサイタルを聴いた。

 曲目は、前半にシューベルトの「春に」と「すみれ」、シューマンの「詩人の恋」、後半にはシュトラウスの歌曲集「乙女の花」と「四つの最後の歌」。ルイテンの歌はBDのオペラでいくつかみたことがある。とても魅力的な歌手だと思っていたが、期待以上のすばらしさだった。ピアノのトム・ヤンセンはかなり高齢の方で、最初は元気がないかな?と思ったのだったが、じっくりしっとりと地味ながら美しい伴奏をしてくれた。

 ルイテンは、清澄な声で音程がよく、詩の味わいを見事に表現する。一つ一つの音、一つ一つの言葉が考え抜かれ、磨き抜かれて、完璧にコントロールしているのがとてもよくわかる。ニュアンス豊かで、表現の幅が広いので、音楽が聴く者の心にしみる。

 シューベルトでは、この作曲家の晩年の曲に特有の切羽詰まった孤独感がひたひたと伝わってきた。「詩人の恋」も歌による感情をニュアンス豊かに表現する。私がドイツ語を解しないせいもあるかもしれないが、ふだんは男性が歌うこの歌曲集にまったく違和感を覚えない。一人の繊細な心の捉えた恋の物語が伝わってくる。

 後半はことのほか素晴らしかった。この人は本質的にシュトラウス歌いなのだと思う。どの歌も本当に素晴らしい。やはり私は「四つの最後の歌」にしびれた。文字通り、しびれた! 

 何を隠そう、「四つの最後の歌」は、私の最も好きな歌曲集だ。シュトラウスは大好きな作曲家なので好きな曲はたくさんあるが、その中でもこの曲は別格だ。おそらく、発売されたすべてのCDを所有している。ひところ私が死んだら葬式ではジェシー・ノーマンの歌うこの曲のCDをかけてくれるように妻に頼んでいたほどだ(妻が先に死んでしまったので、この約束は反故になってしまった)。

 ルイテンは、最晩年のシュトラウスの様々な感情の入り混じるニュアンス豊かな音楽を本当に見事に表現して、死を前にした諦観と生への執着が入り混じる感情を描き出した。とりわけ、「九月」の、オーケストラ版のヴァイオリン・ソロにあたる部分の後の歌唱は本当に感動的だった。

 私はこれまで、シュヴァルツコップによってシュトラウス歌曲のすばらしさを知り、ジェシー・ノーマンによってよりいっそう感動を深めてきたのだったが、ルイテンはシュヴァルツコップほど技巧に傾きすぎず、ノーマンほど声の威力を用いず、もっと自然にもっと清らかに歌いながら、知的に、そして高貴に深い思いを表現する。素晴らしいリート歌手だと思った。

 アンコール3曲はいずれもシュトラウスの歌曲。「明日」「献呈」「夜」。いずれも最高の歌唱だった。とりわけ、「献呈」はシュトラウスの歌曲がプログラムに取り上げられるリサイタルの定番のアンコール曲だが、それにしても華やかな盛り上がりが素晴らしい。1960年代、大分市在住の高校生だった私は、シュヴァルツコップ初来日の際の福岡公演をはるばる聴きに行き、その時もこの曲かアンコールで歌われて、感動の涙を流したのを覚えているが、その時に劣らぬほどに感動した。

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