戸田&エル=バシャの凄まじいクロイツェル
2024年4月5日、旧東京音楽学校奏楽堂で東京春音楽祭、戸田弥生(ヴァイオリン)&アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)のリサイタルを聴いた。曲目は、すべてベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタで、前半に第3番と第7番、後半に第9番「クロイツェル」。
この二人は日本でもたびたび演奏してきた。CDもリリースしている。まさに名コンビだと思う。格調高く知的なエル=バシャのピアノと凄まじい集中力で音楽の本質をえぐり出す戸田のヴァイオリン。二人の音楽が重なって相乗効果をもたらす。
第3番は屈託なく始まり、だんだんと強く、深く、そして激しくなっていく。その様子がおもしろかった。が、実を言うと、この曲ではこの二人の持ち味は十分にいかせないと思った。第7番の冒頭から、まさに二人の本領発揮。戸田の強い音によってぐいぐいと観客の魂をつかむ。荒々しいといえるほどの音。化粧によって表面を磨いた音ではなく、魂をわしづかみにするような音。第2楽章は打って変わって少し甘美になる。しかし、戸田の音は表面を飾らない。そして、激しく高揚する第3楽章。ヴァイオリンは激しく魂を描き、ピアノはしっかりとゆるぎなく、しかし歌心を秘めながら土台を作る。
後半の第9番「クロイツェル」が、やはり圧倒的に素晴らしかった。これもまた最初のヴァイオリンの音で観客をまさにベートーヴェンの宇宙に巻き込む。その後は、息もつかせぬほどの集中力で緊張感あふれる世界を作り出す。第2楽章では変奏ごとに異なるリリシズムを聴かせてくれる。そして、第3楽章。ピアノの美しい音の上で、ヴァイオリンがスケール大きく流動し、切り込み、魂の躍動を描く。そして、このなかに交響曲第5番や第9番のような、苦悩の中の歓喜が聴こえてくる。そうか、これは歓びに向かって必死に手を差し伸べようとしている音楽だったんだ!と思った。凄い! こうだから、この二人の演奏はこたえられない! 何度、魂が震えたことか。
アンコールはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」の第3楽章。これもとてもよかった。満足。
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