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アスミク・グリゴリアン 最高のソプラノ!

 2024年5月17日、東京文化会館で、アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサートを聴いた。伴奏はカレン・ドゥルガリャン指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。

 グリゴリアンは、映像ソフトやCDでサロメ、ゼンタ、イェヌーファ、ルサルカ、クリソテミスなどを聴き、そのたびに圧倒されてきた。一昨年の東京交響楽団による「サロメ」の実演でも圧倒的だった。次々と大型新人歌手が現れるが、この人はその中でも別格。

 指揮者はアルメニアの人らしい。グリゴリアンはアルメニアに起源をもっているとのこと(父親のゲガム・グリゴリアンはロシアで活躍する大テノールだったが、アルメニア出身だったようだ)なので、この指揮者を選んだのだろう。

 曲目は、前半にドヴォルザークの「ルサルカ」から「月に寄せる歌」、チャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」から「タチアーナの手紙の場」、「スペードの女王」から「もうかれこれ真夜中...ああ、悲しみで疲れ切ってしまった」、アルメン・ティグラニアンの「アヌッシュ」から「かつて柳の木があった」。最後の曲はアルメニアの作曲家のアルメニア風の音楽のようだ。

 いずれも言葉をなくす凄さ! 完璧に声をコントロールして最高の声を出す。音楽をよく知っているというのか、聞かせどころを知っているというのか、ここぞというところで最高の効果を及ぼす声。観客の心をぐいとつかむ。私はマリア・カラスの実演を聴いたことはないが、録音で聴くカラスの歌を思い出す。グリゴリアンは少しレパートリーは異なるが、同じように観客の心をつかみ、声だけで観客を感動に震わせる。

「月に寄せる歌」は健気でどこまでも美しく、タチアーナの歌は狂わしいばかりに恋心にあふれている。

 後半はもっとすごかった。リヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」のクリソテミスのモノローグ 「私は座っていることもできないし、飲んでいることもできない」、そして、「サロメ」の最後の部分。これまた言葉をなくす凄さ。シュトラウス好きの私としては、これほどのクリソテミスとサロメを生きている間に実演で聴けるとは思わなかった!というレベル! 陶然となった。一音一音に心が反応してしまう。これほど役を自分のものにし、声を完璧に出し、オーケストラに負けない声量で歌いきる歌手はいないだろう。

 私がこれまで実演を聴いたソプラノの中で、最も圧倒的だと思ったのはジェシー・ノーマンだったが、グリゴリアンはもっと若々しい女性的な声で、オペラの役にふさわしい声でありながら、ノーマンに負けない声の威力を持っている。これまで聴いてきた最高のソプラノだと思った。

 指揮のドゥルガリャンは決して悪い指揮者ではないと思うのだが、ただちょっと残念なのは、この指揮者はあまりシュトラウスを得意にはしていないようで、「サロメ」の「七つのヴェールの踊り」などのオーケストラの部分はちょっと緊張感が不足しているのを感じた。この最高の歌手にふさわしい最高の指揮で聴きたいと思った。

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