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エルサレムSQ&小菅優のドヴォルジャークに興奮

 2024614日、サントリーホール、ブルーローズでサントリーホール・チェンバーミュージックガーデン、エルサレム弦楽四重奏団を中心とする演奏を聴いた。曲目は前半にメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番とベン゠ハイムの弦楽四重奏曲第1番、後半にピアノの小菅優が加わって、ドヴォルジャーク(私は、ふだんはドヴォルザークという表記を用いるのだが、プログラムにならってここではこのような表記にする)のピアノ五重奏曲第2番。素晴らしかった! とりわけ、ドヴォルジャークは素晴らしかった。興奮した。まだ興奮している。

 まず、エルサレム弦楽四重奏団が素晴らしい。完璧なアンサンブルで、しかも一人一人のテクニックも見事。きっと第一ヴァイオリンのアレクサンダー・パヴロフスキーがリードしているのだろう、緊張感にあふれ、構成感のしっかりした音楽が作られていく。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番は、ややもすると平板になったり、あるいは逆に情緒的になったりするところを、強い音で深い思いをえぐりながらも、構成が崩れないので、ベートーヴェンの中期作品にも迫る説得力を持っている。第一ヴァイオリンの音色が言葉を失うほどに美しい。すべての音が生きており、ぐいぐいと推進していく。しかも、ホモフォニックではなく、ポリフォニックな演奏だといえるだろう。主旋律を強調するのでなく、すべての楽器が同等に絡み合う。メンデルスゾーンはバッハを研究していたことを思い出すような演奏だった。

 ベン゠ハイムという作曲家の曲を初めて聴いたが、これもなかなかおもしろかった。19世紀末に生まれ、1984年に亡くなったユダヤ人作曲家とのこと。「ユダヤ的」と言ってよいのかどうかわからないが、「泣き」というのか、「怨念」というのか、そのような思いがあふれ出るような部分があった。私の好みではないが、それはそれでおもしろい。

 後半のドヴォルジャークがあまりに素晴らしかった。この曲は私の好きな曲なのだが、こんな名演は実演でも録音でも聴いたことがない! 

 美しく、心ひそかに思いにふけるような音楽だと思って、これまで好んで聴いていたが、「そうか、こんな曲だったのか!」と初めて思い当たった。痛々しいまでに激しい思いのこもった音楽だった! 小菅優のピアノが激しく、強く、痛々しく、あらんかぎりの感情を音にする。しなやかでありながらも芯の強い音。一つ一つの音も本当に美しい。弦楽四重奏も小菅のピアノに負けずに、一つ一つの楽器が、この曲でもポリフォニックに響いて、重層的な音楽を作り上げる。

 第一楽章はまさに痛々しさを引きずりながら心の奥をえぐり、ロマンティックな思いを抱きながらあがいているかのような演奏。第2楽章はもっと甘美になり、苦しい思いの中で憧れを追い求める。第3楽章で快活になり、最終楽章で歓びが爆発する。わくわくした思いがあふれ出す。私は第1・2楽章ではともに泣きたい気持ちになり、第3楽章では一緒に踊りたい気持ちになり、最終楽章では喜びに叫び出したい気持ちになった。

 アンコールはショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲のスケルツォ(ヴィオラのオリ・カムが日本語で紹介!)。これも、躍動感にあふれ、ショスタコーヴィチらしい諧謔と韜晦にあふれた素晴らしい演奏!

 一昨日、ウェールズ弦楽四重奏団の、ベートーヴェンの「大フーガ」なのに微温的で、淡々と弾かれるばかりで何事も起こらない演奏にがっかりしたのだった(もちろん、もしかすると、通好みのウェールズ弦楽四重奏団の演奏を味わう耳を私が持っていないのかもしれないが)。今日は満足。満足どころか、これほど興奮したのは久しぶりだったような気がする。やっぱり音楽はこうでなくっちゃ。こんな演奏にときどき出会うから、コンサート通いはやめられない。

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