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井上&服部&N響のショスタコーヴィチ 妖精の縦横無尽の舞い

 6月29日、サントリーホールでNHK交響楽団演奏会を聴いた。指揮は井上道義。曲目は服部百音のソロが加わって、ショスタコーヴィチのヴァイオリン第1番と第2番、そして、それに挟まれるようにしてロッシーニの「ブルスキーノ氏」序曲。

 服部のヴァイオリンは表情豊かでうねりがあり、繊細で妖艶さがあり、しかも生き生きとして溌剌。超絶技巧をやすやすとこなし、ショスタコーヴィチ特有の激しい情熱を見事に作り出していく。ロマンティックな要素と激情的な要素がうまく入り混じって、不思議な魅力を作り出す。異世界から妖精が飛び出して、自分の思いをさらけ出して縦横無尽に踊りまくっているかのよう。素晴らしいと思った。音楽に酔った。

 ただ、私としては音の小ささが気になる。素晴らしい演奏なのだが、しばしばオーケストラにかき消される。これまで私の聴いてきた録音や実演はもっともっとヴァイオリンの音が大きく、もっとスケールが大きく、もっと激情的だった。ところが服部の演奏は、繊細なのはいいのだが、音が小さいために爆発力がない。これは惜しいと思った。

 井上の指揮は、ショスタコーヴィチの不気味でエネルギッシュで一筋縄ではいかない世界を作り出して、見事。N響(コンサートマスターは、マロこと篠崎さん)も濁らない鮮烈な音で見事に指揮に答えている。

 ショスタコーヴィチはロッシーニを愛し、自作の中でしばしばロッシーニを引用したり、オマージュと言えるようなメロディを作り出したりしている。そのために、今回、「ブルスキーノ氏」序曲を曲目に選んだのだろう。これは弓で弦楽器の板の部分をたたく奏法を多用している曲だが、その奏法を強調して演奏。ロッシーニとしては、かなりいびつでででこぼこした演奏になっていた。が、きっと井上はショスタコーヴィチの聴いたロッシーニを再現したかったのだろう。まさにショスタコーヴィチ風のロッシーニ。

 井上道義は今年限りで指揮をやめると宣言している。残念なことだ。繊細でありながらも大胆で奇怪。時に激しい爆発を聴かせてくれる。こんな魅力的な音楽を作り出してくれる指揮者は唯一無二だ。まだ余力があるのにやめるとすると、こんな残念なことはない。

「指揮者をやめるって言ったのは冗談だよ。君たち、真に受けてたの?」と言って臆面もなく指揮を続けてくれたらうれしいと、今日聴いたほとんどに人は思ったに違いない。

 

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