山形交響楽団さくらんぼコンサート ブラームスの二重協奏曲に感動
2024年06月20日、東京オペラシティコンサートホールで山形交響楽団のコンサート(さくらんぼコンサート)を聴いた。山形交響楽団の評判はずっと前から聞いていたが、実際の演奏を聴くのは初めて。評判通りの演奏だった。指揮は阪哲朗。
曲目は、前半にモーツァルトの「魔笛」序曲とミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」K.317、後半にニキシュの「ファンタジー(オペラ 「ゼッキンゲンのトランペット吹き」 のモチーフによる)」とブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲。
まず「魔笛」序曲のオーケストラの精度に驚いた。金管を中心に時代的な楽器が含まれているようで、独特の音がする。そして、勢いのある生き生きとした音。阪の指揮も爽快で、しかも構成感が見事。自然に音楽が流れ、ここぞというときにしっかりと楽器が鳴る。モーツァルト特有の美しい旋律と「魔笛」らしい不思議な雰囲気がぴたりと重なり合っている。素晴らしかった。
ただ、次の「戴冠式ミサ曲」は、私はあまり感動できなかった。合唱団は山響アマデウスコア。山形から大挙してやってきたとのことだが、音量に頼りすぎる気がした。ずっと大声で歌っているために、合唱が一本調子になり、どの部分も元気に歌っているだけの音楽になってしまっていた。しかも、耳を澄ますとなんだかきれいにハモっていない。悪く言うと、精度の低さを物量で補っている感がある。きっと阪も合唱団の力量をわかったうえでこのような音楽の運びにしたのだろうが、私は少し退屈してしまった。
とはいえ、四人の独唱者(7ソプラノ:老田裕子、アルト:在原泉、テノール:鏡貴之、バリトン:井上雅人)はとても良かった。とりわけソプラノの老田は音程の良い澄んだ声で素晴らしかった。
後半のニキシュの曲は、私には面白くなかった。はっきり言って、「つまらない曲」だと思った。ニキシュの名前は、もちろん指揮者としてずっと昔からよく知っているが、少なくともこの曲で判断する限り、私には作曲家としての才能は感じられない。卑俗で他愛のないメロディ、あまりに単純なオーケストレーション!
最後のブラームスの二重協奏曲には感動した。私は高校生の頃からこの曲がかなり好きなのだが、めったに演奏されない。演奏されても、あまり感動することがなかった。ところが、今日の演奏は見事。まずヴァイオリンの辻彩奈とチェロの上野通明の息がぴたりと合っている。お互いに補い合い、重なり合い、協力して音楽を進めていく。親友だったヴァイオリニストのヨアヒムと仲たがいして、それを修復するためにブラームスが、交響曲として作曲中だったこの曲を、急遽、二人の友情を示すようなヴァイオリンとチェロの二重協奏曲に改めたといわれているが、それが良くわかる演奏だった。阪の指揮も見事。ブラームスらしい、厚みのある、そしてきわめて構成のしっかりした音楽が作り出されていく。緊密に構築され、のびやかであたたかい。この曲は、もうそれだけで十分に名演奏になる。ここでも、山形交響楽団の音はとても美しい。「魔笛」ほどには精度が高くなかったが、それでも見事に盛り上げた。
ソリストのアンコールは「魔笛」のパパゲーノのアリアのヴァイオリンとチェロの二重奏。誰の編曲だか知らないが、ヴァイオリンとチェロが見事にパパゲーノのアリアを作り出した。とても楽しかった。
さくらんぼコンサートとのことで、配布されたプログラムに当たりの券がついていたらさくらんぼをもらえることになっていたようだが、私はハズレだった。10人に一人の割合で当たったらしい。残念! 会場で山形物産展のようなことも行われていた。このようなローカル色あふれるコンサートもとてもいい。
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