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堤剛&小山実稚恵 いぶし銀のベートーヴェン!

 202461日、サントリーホールブルーローズで、サントリーホールチェンバーミュージックガーデンの初日、オープニングコンサートを聴いた。出演は堤剛(チェロ)と小山実稚恵(ピアノ)。曲目はすべてベートーヴェン。前半にチェロ・ソナタ第1番と『ユダス・マカベウス』の主題による変奏曲とチェロ・ソナタ第2番、後半にモーツァルトの『魔笛』より「愛を感じる男の人たちには」による変奏曲とチェロ・ソナタ第3番。

 堤さんは80歳を超えている。さすがに指の動きは以前に比べると迅速ではなく見える。が、指がついて行かない部分も含めて、音楽としてまったく違和感がない。音程はしっかりしており、音楽の起伏が自然で、構成感があって、抑制されるつつも歌心がある。バリバリ弾かないところが一つの説得力となって、大人の音楽が繰り広げられていく。凄いと思った。一つ一つの音を念を押しながら先に進んでゆく丁寧な音楽。そこにしみじみとした味わいが生まれ、いぶし銀の光沢ができる。ひいき目でもなんでもない、バリバリ弾く演奏より、こちらの演奏のほうがずっといいではないか!

 小山さんのピアノも素晴らしかった。堤さんのテクニックを理解したうえで、その音楽性を生かしながら、しかも自分の音をしっかりと出しながらフォローしていく。ベテランにしか作り出すことのできない音楽だと思った。

 実は私には堤さんに大きな思い入れがある。

 私のコンサート歴の出発点は堤さんだ。小学生のころ、レコードを聴いてクラシック音楽に夢中になった私は、大分市の地域のデパートの小さなホールでのコンサートに母につれていってもらったことはあったが、それは地域の無名の音楽家の「発表会」に近いものだった。私が最初に本格的なコンサートを聴いたのは、1963年か64年、別府の国際観光会館でのNHK交響楽団の公演だった。私は小学生だったか、中学生だったか。大分県にプロのオーケストラがやってくるなど数年に一回しかない。私は親にねだって、隣の別府市まで父のオートバイに乗せてもらって出かけた。指揮は岩城宏之、曲目は前半にカバレフスキーの組曲「道化師」とドヴォルザークのチェロ協奏曲、後半にチャイコフスキーの「悲愴」。そのとき、チェロを弾いたのが、世界のいくつかのコンクールで上位入賞を果たしていた堤剛だった。

 その時の感動は今も忘れない。レコードでクラシックに夢中になっていたが、生のオーケストラは格別だった。その後、しばらく私は堤さんがチェロを弾く姿を真似たものだ。今でも、私のエアー・チェロの腕前は大したものだと思う。

 当時、堤さんは20歳そこそこ。あれから60年たって、今も素晴らしい音楽を聴かせてくれている。感慨を覚えずにはいられない。

 やはり、後半の第3番のソナタが圧倒的だった。しみじみとした演奏。衒いもなく、こけおどしもなく、音そのものを楽しみ、内面から自然の音楽が湧き出てくるかのよう。そうでありながら、まぎれもなくベートーヴェンの不屈の精神のようなものが聴こえてくる。

 涙が出そうになった。6月4日、残りのソナタが聴ける。楽しみだ。

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