吉田志門&碇大知デュオコンサート シュトラウスと山田の歌曲に感動
2024年7月31日、フィリアホールで、吉田志門&碇大知デュオコンサートを聴いた。「ベルリンからの挨拶」とのタイトルのついたリサイタルで、ベルリンで暮らし、ベルリンRIAS室内合唱団に所属するテノール歌手である吉田志門がベルリンにまつわるリヒャルト・シュトラウスと山田耕筰の歌を歌う。私は昨年だったか、武蔵野市民文化会館で吉田の歌う「美しき水車小屋の娘」を聴いて驚嘆。今回、リサイタルが開かれると知ってあわててチケットを入手したのだった。今回も素晴らしかった。
ランチタイムコンサートとのことで開始が11時30分。歌手にとっては午前中にコンサートはつらいだろう。だが、最初の曲、シュトラウスの「セレナーデ」から、持ち味の柔らかい声で確かな音程で見事に歌った。次の「愛の讃歌」は高音が少し苦しかったが、時間から考えるとやむを得ないだろう。「何も」は持ち直してとても良かった。無理のない発声でしなやかに自然に歌う。
次にシュトラウスの歌曲集「商人の鑑」から5曲。吉田さんの軽妙な解説ののちに歌われた。私は、昔シュライヤーの録音したCDを聴いていたが、実演は初めて。シュトラウスが楽譜出版社とのトラブルを題材にして描いた歌曲(後年の「私オペラ」とでも呼びたくなるような「インテルメッツォ」を彷彿とさせる、いわば「私歌曲」)を吉田はとても軽妙に、しかし感動的に歌う。碇のピアノも抒情的でとても美しい。歌とぴったり合っている。
山田耕筰の「待ちぼうけ」「かやの木山の」「鐘が鳴ります」も、日本語の自然な発声、詩の意味をとらえた歌いまわしが素晴らしい。同じ旋律でも見事にニュアンスを変えて歌う。「待ちぼうけ」はまるで歌による変奏曲!
山田耕筰の「城ヶ島の雨」は初めて聴いた。よく知られている梁田貞作曲のものとは雰囲気の異なる抒情的な曲。繊細でしなやかな吉田の歌いまわしも美しい。しっとりとした雨の風景が目に浮かぶ。素晴らしいと思った。「松島音頭」もおもしろい曲。陽気な曲もとてもよかった。
そのあと、シュトラウスの「やさしき幻影」「金色に包まれて」、山田の「赤とんぼ」「たたへよ、しらべよ、歌ひつれよ」。アンコールは山田の「からたちの花」、シュトラウスの「どうして秘密でいられよう」「明日」。私は、「やさしき幻影」「からたちの花」と「明日」に特に心惹かれた。この二人の演奏は、歌われているこの場所にとどまることなく、もっとその先、もっとずっと遠くのほうまで包み込むような抒情的な雰囲気にあふれている。「からたちの花」の単純な音の中にあふれる抒情、「明日」の微妙で複雑な感情に深く感動した。
吉田志門は、日本で初めての世界的テノールではないかと私は思っている。これから先の活躍が楽しみだ。
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